研究課題/領域番号 |
11J02295
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
角谷 繁宏 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 蛍光プローブ / シアン化物イオン / スピロピラン / クマリン / フルオレセイン / 求核相互作用 / ポリマー / 水 |
研究概要 |
特定のイオン種に対して選択的に応答する蛍光プローブは、簡便かつ迅速にイオン種の定性・定量分析ができるため、生化学や環境分析の分野で注目されている。本研究では、水溶液中の有害イオン種を選択的に検出できる蛍光プローブの開発を目的としている。本年度は、簡便な操作で再生できる蛍光プローブの開発に取り組んだ。 1.クマリン-スピロピラン(CS)複合体とN-イソプロピルアクリルアミドから成るコポリマーを合成した。本ポリマーは、紫外線照射下、水中のシアン化物イオン(CN^-)を認識して青色蛍光を示す。この選択的な蛍光は、CN^-がCS部位のスピロ炭素へ求核相互作用することにより、CS部位の電子密度が局在化するためである。また、本ポリマーは簡単な酸処理・加熱により再生・回収が可能であり、高い感度を保持したまま再利用できることを明らかにした。また、2.フルオレセインとスピロピランを複合化したCN^-発色プローブを開発した。本分子は、紫外線照射下、水溶液中のCN^-と選択的に相互作用することにより、512nmを極大とする新たな吸収を出現させる。この吸収の変化は、CN^-とスピロ炭素が求核相互作用することにより、電子密度が局在化するためである。 関連研究として、3.キノリンとジピコリルアミンをスチリル基で結合させた分子を開発した。本分子は、緑色の蛍光を示すが、金属イオン存在下では異なる蛍光色を示す(Cd^<2+>:青色、Hg^<2+>:黄色、Pb^<2+>:橙色)。これは、金属イオンへの配位により、分子内電荷移動特性が変化することによる。また、二種の金属イオンを同時に添加すると中間色を作り出すことが可能であり、特に、Cd^<2+>とPb^<2+>の共存下では白色発光を示した。さらに4.スピロピラン誘導体のメロシアニン構造への熱異性化が粘性溶媒中で促進されることを見出した。この異性化促進は、粘性溶媒の強い溶媒間相互作用によりメロシアニン種に対する溶媒配向が抑制され、異性化エントロピーが増大するためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者は、シアンを検出する分子プローブとして水中で使用でき回収再利用の可能な蛍光プローブの開発に成功した。また、金属イオンによって異なる発光色を示す新規発光分子を開発した。この分子は、二種の金属イオンを適切な割合で加えることにより中間色を発光させることができ、白色発光も可能であるという非常に珍しい材料である。この研究成果は、著名な学術論文誌への論文発表のほか、2011年光化学討論会における発表で、専門家によるポスター発表ならびに口頭発表の厳しい審査を経て、最優秀学生発表賞を受賞した。したがって区分(1)に該当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、特定のイオン種だけを選択的に検出するための蛍光プローブの開発を行ってきた。今後は、性質の類似したイオン種を同時に検出し、なおかつ識別可能なプローブ分子の開発に取り組みたいと考えている。これまでに、クマリン-アミド-ピコリルアミンから成る連結分子が、水中の亜鉛(II)とカドミウム(II)イオンに対して応答し、異なる蛍光色を示すことを見出している。また、レゾルフィンにジニトロフェニルエーテルを導入した分子が、芳香族チオラートと脂肪族チオラートに対して異なる吸収応答を示すことを見出している。プローブ分子がイオン種に応じて異なる挙動を示すメカニズムを明らかにすることで、類似した性質を持つイオン種を識別できるプローブの設計指針を得ることができると考えられる。
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