研究概要 |
金属イオンと有機配位子の自己集合により構築される多孔性錯体はその多彩な構造に由来する機能設計性から着目されている物質群である。従来の研究においてはナノスケールのビルディングユニットに着目し、分子設計を行うことで機能設計がなされてきた。一方で固体は統計的な数の分子が集合することで構築されているため、固体物性の発現にはメゾスケールのドメインを通じた遠達的な相互作用が重要であることが知られている。そこで研究者は多孔性錯体の有するドメイン集合体を多孔性機能設計の場として着目した。すなわち、固体内部に異なるドメインを適切に構築・配置することで、ドメイン集合体をモジュール的に設計することを可能とし、相転移に基づく協同的吸着システムの構築が達成できる。ところが合成化学的に合理的な構築手法が未だ報告されておらず、その設計指針が強く求められている。本研究では多孔性錯体の結晶化過程に着目し、ワンポット反応における構成要素の動的な配位平衡を制御してやることで、ドメイン集合体の構造制御を試みた。 塩基性配位子であるNa2NO2-ipを用いた場合には、反応性が非常に高いためZn,Mnともに同程度の速度で錯体が合成され、固溶体型錯体の生成が確認された。一方で酸性配位子であるH2NO2-ipを用いた場合、配位平衡の違いを反映し錯体生成速度が非常に大きく異なり、階層的な自己集合を介して、相分離型錯体の生成が確認された。本手法によって得られた錯体の吸着特性の検討を行ったところ、相分離型錯体において協同性の向上と吸着開始圧の増加が確認された。このような傾向は従来の単一の結晶相を有する錯体において報告されておらず、ドメイン間の強い相関により構築されたものとして現在機構について検討を行っている。本手法はメゾスケール領域に合理的な構造科学を持ち込め、これからの発展が期待できるという点において、非常に興味深い。
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