研究概要 |
近年ゲスト分子の吸脱着に際し、その構造を柔軟に変化させる多孔性金属錯体は新たな多孔性材料として注目を集めている。構造柔軟な錯体では、吸着前は非多孔体の構造を有するために細孔内への吸着は起きないが、ある圧力で構造転移が生じ突如ゲスト分子の吸着を開始するゲート型吸着と呼ばれる現象が知られている。これは構造転移であるが故に分子設計が非常に困難を極め、いまだその合理的設計指針は確立されていない。そのために系統的に錯体を合成し、その起源の検討を行うことは重要である。 本年度申請者は、同型の構造を有する構造柔軟な多孔性金属錯体を系統的に合成し、ゲート型吸着に対する金属イオンの効果について検討を行った。[M(NO2-ip)(bpy)]n(M=Zn,Ni,Mn,Co;NO2-ip=5-nitroisophthalate;bpy=4,4'-bipyridyl)これらの錯体はいずれも同型の構造を有しており、吸着前には非多孔体、吸着後には多孔体であることがX線構造解析により分かった。X線構造解析また赤外分光測定から、配位中心の金属イオンのイオン半径が大きくなるほど、配位結合の強度が弱くなっていることが実験的に明らかになり、また量子科学計算からもそのことがサポートされた。これら化合物は先述したように構造転移を示すため、中心金属種にかかわらずいずれの錯体もゲート型吸着を示す。またこれらの錯体は金属イオン種に依存してステップを伴う吸着挙動における違いが観測された。さらにこの最終的な吸着量は中心金属イオンのイオン半径が大きくなるにつれて、吸着量が増大することが分かった。また吸着等温線における立ち上がりの急峻さに着目したところ、中心金属のイオン半径が大きくなるにつれて、緩やかな等温線を示すという傾向が見られた。中心金属のイオン半径が大きくなった場合配位中心の構造が多様な構造をとり得るために、分子認識を伴い構造変化し、かつ多重な構造安定性がそれぞれの間の協同性を失い緩やかな吸着挙動を与え、このような吸着挙動の違いに至ったものと考えている。
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