同位体効果とは、その分子の一部の構成要素を同位体原子に置換した時にその諸物性に与える影響を指し、化学反応においては大きな効果を示すことが古くから知られている。一方で、電子物性や分子認識において同位体効果がほとんど生じないことが知られている。これは重元素によって誘起される、ゼロ点エネルギーの差が非常に小さいことに由来する。仮にこれらを達成することができれば、基礎的な知見だけではなく、同位体センサーや分離などの応用に向けた発展が期待できる。そこで、私は金属イオンと架橋配位子によって規則性構造を構築する多孔性金属錯体に着目し、研究を行った。 多孔性金属錯体によって誘起されるゲストのクラスター化現象を分子認識へと応用した。原子核の量子性により、分子間相互作用を通じてクラスター化の駆動力が異なるために、分子認識に応用できると考えた。実際にこのような考えのもと、同位体混合系からの実験を試みたところ、蒸留や電気分解などに代表される従来の手法よりも高い分子選択性が観測された。この成果に関しては現在論文投稿中である。 多孔性金属錯体によって形成される交互積層構造を利用し、電子状態の違いを誘起することにも成功した。ホスト骨格内部の表面上にパイ電子を露出している芳香環を利用し、ゲスト分子との間でのAAB型交互積層構造を形成した。ゲスト分子の幾何学的同位体効果を利用することで吸着構造に違いを誘起し、結果として紫外可視吸収スペクトルに大きな差を出すことに成功した。この電子状態の違いに関して固体NMRから検討を行ったところ、ホストゲストでの電子のやりとりの違いが、同位体効果によって誘起されるということが明らかとなった。この成果に関しては現在論文執筆中である。
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