大振幅内部重力波と鉛直混合の間の遷移過程では、内部重力波の密度逆転による対流、力学的に不安定な流れ場で成長するKelvin-Helmholtz(KH)波、そして海底境界層が不安定となって成長するTollmien-Schlichting(TS)波が励起されることが、報告者の過去の鉛直2次元非静水圧モデルを用いた数値実験によって示されており、KH波とTS波が結合した新しい不安定モード(結合モード)の存在も示唆される。本年度は、KH波とTS波が結合するメカニズムを理論的に考察し、数値実験により調べた。KH波とTS波それぞれの線形成長理論を組み合わせると、基本流が壁に接する三角ジェットの場合、2つの渦波と粘性モードの共鳴によってKH波とTS波が結合することが考えられる。そこで数値実験により結合メカニズムを検証したところ、2つの渦波と粘性応答は増幅し合う位相関係を保ち、理論的考察通りに結合モードが発達した。また、ジェットの形状を変えた実験により、結合モードの成長率がKH波やTS波の数倍~十倍になる場合や、位相速度と波長がKH波とTS波のどちらか或いは両方と大きく異なる場合があることが示された。さらに、対流も加えた実験から、この結合モードは大振幅の擾乱が存在する流れ場においても発達できることが明らかになった。結合モードは、大振幅内部重力波の砕波が起きていると推定されている世界各地だけでなく、海底近くにジェットのような流れが存在する海域、例えばoverflowや密度流により深層水が形成される海域でも生じている可能性がある。そして海洋以外、例えば大気境界層や一般に壁近くにジェット流がある流れ場にも適用できる。従って、結合モードの知見は、海洋中の鉛直混合の理解とその見積もりの改良に寄与し、熱塩循環と物質循環の理解を深めるのに加えて、海洋を含む流れの安定性に関して広く応用できる。
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