昨年度に引き続き、遺云解析により果実食鳥の種子パターンの解析を行った。調査地内に、鳥類フン回収用のトラップを設置し、結実期間を通して鳥類フンおよびフン内に含まれるミズキ散布種子を回収した。回収した種子は遺伝子型を特定し、調査地内結実木の遺伝子型と比較することで母樹を推定した。また、フンDNAを用いて散布者のミトコンドリアDNACO1領域の塩基配列を決定し、散布者の特定を行った。これらの解析により、異なる年の種子散布パターンを比較することが可能になった。結果は昨年度に行った解析と同じものであり、多くの種子の散布距離は短く、鳥類は果実を採食してもあまり移動せずに採食木付近に散布することが多いことが明らかになった。この結果は、ミズキの結実量や結実フェノロジーが異なる年であっても果実食鳥類の種子散布距離は安定していることを示唆している。 ミズキの種子散布者として、多様な果実食鳥類だけではなく果実食性の哺乳類も貢献していることが考えられる。そこで、調査地内に生育する果実食哺乳類であるタヌキとアナグマの種子散布バターンの解析を新たに行った。まず、調査地内でこれらの哺乳類のフンを機会的に採集した。そして、フン内に含まれるミズキ種子(タヌキ22種子、アナグマ93種子)からDNAを抽出し、鳥類の種子散布パターンの解析と同様な方法で、解析を行った。その結果、これらの中型哺乳類の種子散布距離は、平均で100mを超えており、鳥類に比べ顕著に長いことが明らかになった。中型哺乳類が、液果樹木の種子散布者として重要な機能を担っていることが示唆された。一方で、フン内に含まれるミズキ種子の母樹の多様性は、中型哺乳類と鳥類で有意な差は認められなかった。単一の系で、鳥類と中型哺乳類の種子散布パターンを比較した研究は非常に少なく、貴重な研究例である。
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