焦電型赤外線センサの感度向上には、赤外線感受部の低熱容量化により、熱の逃げを抑える手法が有効的である。本研究では、低温成膜が可能な有機強誘電体を用いることで、低熱容量なフィルム基板上への成膜を可能としてきた。数十μm膜厚のフィルム基板上に有機強誘電体薄膜を形成することで、基板材料・センサ部ともに低熱容量であり、有機材料の特徴でもあるフレキシブルなセンサ開発を行ってきた。しかし、基板への熱拡散による感度、応答性の低下を完全に抑えるまでには至っておらず、さらなる基板フィルム膜厚の薄膜化による感度向上を目指すと同時に、特性を最大限に引き出すために基板を持たない自立構造の作製の検討を行った。 焦電材料はスピンコートにて簡便に成膜可能なフッ化ビニリデン―三フッ化エチレン共重合体P(VDF/TrFE)を用いた。P(VDF/TrFE)スピンコート膜を剥離する手法により、膜厚100nm~数μmの自立薄膜の作製手法を考案し、作製した自立薄膜素子におけるセンサ感度ぐ応答性を評価した。本年度は特に、薄膜化による影響を考察するため、シグナルだけでなくノイズの測定も行うことで、センサのS/N比の指標である比検出能D^*を評価した。フィルム基板(PEN:25μm)上に作製した素子と比較し、D^*において1桁以上の向上が見られた。素子部を自立薄膜とすることにより、赤外線感受部の熱容量を低減することで最大感度のみでなく、応答性も向上し、人感センサとして必要とされる1-10Hzの周波数帯域での大幅な感度向上に成功している。また、自立薄膜構造とすることで、単一の熱要素の仮定による考察が可能となり、応答性の指標となる熱時定数を見積もったところ、500nmの素子で0.013s、1200nmで0.026s、3500nmで0.085sと算出され、応答速度が膜厚に比例することを実証した。
|