研究課題
ハエトリグモの主眼と呼ばれる眼の網膜は、視細胞の光受容部位が4層に積み重なった特殊な構造を持つ。これまでの研究により奥から2番目の層(第2層)は常に"ピンぼけ"であることが示唆され、この発見をもとに「ハエトリグモは主眼第2層で得たピンぼけ像を用いて距離知覚を行う」という、動物の視覚研究において新規となる視覚メカニズムの仮説を立てた。前年度までに行った行動学的解析により、仮説を強く支持する結果を得たため、本年度は主に、この新しい視覚メカニズムがどのような神経機構によって成し遂げられているかについて推察することを目指し、神経解剖学的な解析に取り組んだ。一般的に、ピンぼけ像から距離情報を得るためにはピントの合った像との比較が重要である。このことから、ハエトリグモの主眼においては、ピンぼけの像を受け取る第2層とピントの合った像を受け取る第1層のそれぞれの視細胞からの情報が統合される可能性が考えられる。そこで、視細胞が投射する第一次視覚ニューロパイルについて下記の解析を行った。1)主眼の視細胞が投射する第一次視覚ニューロパイルの構造を調べるために、ホールマウント標本に対し、シナプスを標識する抗シナプシン抗体による免疫染色を行った。これまでの知見では視細胞が投射する領域が2つに分かれるとされていたが、今回の解析により、シナプスが密に存在する領域が少なくとも4つに分けられることが示唆された。また、これらの領域と網膜の視細胞層の形に類似点が見られたことなどから、視細胞の4層とこれらの4つの領域が1対1で対応している可能性が明らかになった。2)視細胞の投射を可視化するために、多数の視細胞の細胞体に蛍光トレーサーをインジェクションした。トレーサーが取り込まれた視細胞は全て第一次視覚ニューロパイルに投射し、第二次視覚ニューロパイルへ直接投射するものは見られなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究では、ピンぼけを利用した距離知覚の神経基盤を調べていく上で重要な基礎となる組織学的知見が得られ、次年度の研究で更なる進展が期待できる。
研究課題に対する生理学的アプローチとして視細胞の細胞内記録の実験系の確立を試みたが、本年度は未達成となった。十分な個体数のハエトリグモを確保できなかったことが原因の一つであったので、繁殖を試み、多数の個体を得ることに成功した。次年度も継続して細胞内記録の実験系の確立に向けて取り組む。
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生物物理
巻: 53 (2) ページ: 109-110
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Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
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10.1073/pnas.1219416110