研究概要 |
軟部肉腫の1つである悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)135例のホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いて、AKT-mTOR系およびMAPK系各因子の免疫染色を行った。その結果、初発例における陽性率はそれぞれ、リン酸化AKT 58.2%、リン酸化mTOR 47.3%、リン酸化S6RP 57,1%、リン酸化p70S6K 53.8%、リン酸化4E-BP1 62.6%、リン酸化MEK1/2 93.4%、リン酸化ERK1/2 81.3%であり、MPNSTにおいて、AKT-mTOR系は約半数から6割の症例で、MAPK系は約8割から9割の症例で活性化していることが明らかとなった。 腫瘍組織凍結標本を用いたウエスタンブロットの結果は、上記免疫染色の結果を裏付けるものであった。 臨床病理学的因子との関連を解析すると、深部発生例で、リン酸化AKT,リン酸化mTOR,リン酸化S6RP,リン酸化4EBP1,リン酸化ERK1/2の陽性例が多く、また、腫瘍の核分裂像および組織学的悪性度とリン酸化4E-BP1,リン酸化ERK1/2の発現に関連がみられた。 予後との関連をみると、単変量解析にて、リン酸化AKT,リン酸化mTOR,リン酸化S6RPの陽性例が有意に予後不良であった。MAPK系因子の活性化と予後との関連はみられず、MPNSTにおける予後予測には、AKT-mTOR系の活性化状況が重要である事が明らかとなった。多変量解析では、リン酸化mTOR陽性が唯一の独立した予後因子であった。 次にMPNST細胞株6株を用いて、mTOR阻害薬の抗腫瘍効果を検証した。 mTOR阻害薬の1つであるエベロリムスを用いて、in vitroでの細胞増殖能への影響をみたところ、いずれの細胞株でも薬剤濃度依存性に細胞増殖が抑制された。 Wound healing assayを用いた遊走能の検証では、エベロリムスによる有意な遊走能低下がみられた。 Matrigel invasion assayを用いた浸潤能の検証では、エベロリムスによる浸潤能の低下がみられた。 以上より、軟部肉腫の1つであるMPNSTにおいて、AKT-mTOR-S6RPシグナル伝達系が高悪性化に関与する事が明らかとなった。その阻害薬であるエベロリムスはMPNST細胞株に対して抗腫瘍効果を示し、新規治療薬として有望であると考えられた。
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