研究課題/領域番号 |
11J02549
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺西 慶太郎 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 体液浸透圧調整 / ウナギ / 腎臓 / 膀胱 / イオン輸送 |
研究概要 |
水圏に生息する魚類では体内と体外でのイオン濃度差とイオン濃度に起因する浸透圧差により、体表を介してイオンと水の受動的移動が起こる。そのため魚類は陸上動物とは異なる独自の体液浸透圧調節メカニズムを備えており、中でもイオン・水の双方を調節する泌尿器系機能の理解は重要であると考えられる。尿生成の過程で、淡水魚は淡水環境で不足する1価イオンを再吸収により補う。また、海水魚は1価イオンと水を再吸収し、海水環境で不足する水を補い、かつ過剰な2価イオンを尿中に濃縮して排出する。本研究では淡水魚・海水魚の双方に共通する1価イオンの再吸収による体液浸透圧調節に着目し、そのメカニズムを解明することを目的とした。 本年度は淡水・海水に適応できるウナギを材料に、腎臓および膀胱で発現し、体液浸透圧調節に関与すると考えられるイオン輸送体の探索を試みた。その結果、腎臓ではナトリウムイオンと水素イオンを交換輸送するNHE3、ナトリウムイオンとカリウムイオンと塩化物イオンを共輸送するNKCC2、ナトリウムイオンと塩化物イオンを共輸送するNCCのcDNA配列を決定することに成功した。一方、膀胱ではこれらのイオン輸送体は発現していないか、低発現であり、別のイオン輸送体が関与する可能性が示唆された。腎臓における定量PCRの結果、NHE3は塩分濃度の高い環境水で発現量が高く、NCCは塩分濃度が低いほど発現量が高かった。また、NKCC2は塩分濃度の違いによる発現変動はなかった。以上の結果は、NHE3は海水適応時にNa^+の再吸収を担い、海水適応時に不足する水の再吸収および過剰になる2価イオンの尿中への濃縮・排出に関与し、NCCは淡水適応時に不足するNa^+,Cl^-の再吸収に関与することで体液浸透圧調節に貢献することを示唆する。また、MKCC2は恒常的なイオンの再吸収により体液浸透圧調節に関与する可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、交付申請書に記載した研究の目的のうち腎臓において発現する複数のイオン輸送体のcDNA配列を決定し、その発現動態を明らかにした。この成果は2011年9月に学会で発表することができ、更に国際誌への投稿に向けて既に執筆済みである。また腎臓、膀胱で発現する水チャネルの探索や浸透圧調節に関与する可能性の高いホルモンの受容体のcDNA配列の決定も完了しており、これらの状況からおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、魚類は腎臓において、環境水の塩分濃度に応じて、それぞれの環境に適した1価イオン再吸収メカニズムを用いて淡水、海水に適応していることが示唆された。今後は免疫組織化学的染色により、各1価イオン輸送体が腎臓のどこに発現していくかを明らかにしていく予定である。また、膀胱で中心的な役割を担う1価イオン輸送体を同定していく必要があると考えらる。腎臓と膀胱という2つの視点から研究を行うことで、魚類泌尿器系全体における体液浸透圧調節メカニズムを包括的に理解することを目指す。
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