研究概要 |
1.ハタンポ属魚類の分類学的再検討これまでの研究で,現存する33種のタイプ標本のうちオセアニア海域と南アメリカ大陸をのぞく23種のタイプ標本を観察した.また,15の博物館機関を訪問し,標本の精査を行うことで,各種の分布が明らかになってきた.これらのデータを元に,地域単位での分類学的な整理を進めており,現在,紅海,西大西洋,日本近海の種について原著論文を執筆中である.また,これら以外にも,インド洋西部に生息する未記載種の記載も進めている.さらに,南大東島で標本採集を行い,本邦からは7種目となる種(日本初記録種あるいは未記載種)を採集した. 2.ハタンポ属魚類の系統と進化訪問した博物館機関などと積極的に情報交換を行い,多くのDNA標本を提供して頂いた,これらの標本と,自身で採集した標本を元に,ハタンポ属の系統樹を作成し,分類学的解析に遺伝学的裏付けを付加することができた.また,ハタンポ属は大きく2つのクレードに分かれ,その遺伝的距離は同科であるキンメモドキ属との距離とほぼ同程度であることが明らかになった. 3.ハタンポ属魚類の生活史上述の分布調査で明らかになった種のうち,比較的広域に分布する2種(近縁種2グループ)の年齢や成長,成熟について明らかにした.これら2グループは,系統解析の結果から,一方の遺伝的変異が大きく,もう一方では小さいことが明らかになっている.これらの生活史を比較すると,遺伝的差異が大きいグループの種は,最小成熟年齢が低く,最高齢も低く世代交代が早いことが明らかになった.一方で,遺伝的差異が小さいグループは,世代交代が遅いことが分かった.このような世代交代の早さの違いが,2グループの遺伝的な差異の大きさとして現れている可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は,本年度でインドとヨーロッパに所在する博物館のみを訪問する予定であったが,タイプ標本だけでなく標本数が非常に多いアメリカに所在する博物館も訪問できた.また,直接訪問したことで各機関の研究者との交流が活発になり,自身での採集が困難な場所の標本も入手することが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,オーストラリア・ニュージーランドの博物館を訪問し,本海域に分布する種についても解析を進める予定である.また,現地での採集などにより入手した標本の遺伝的解析を行い,遺伝的に異なる二つの系統群を別属とする予定である,さらに,未記載種である可能性がある種について,可能な限り遺伝的裏付けを元に,記載していく予定である.グループ内での遺伝的距離がことなる2グループの仔漁期の分散能力に違いがあるかを調べるため両種の初期生活史を調査する予定である.また,産卵生態や成魚の分散能力を評価するため,水族館での観察や自然下での行動観察も併せて行う予定である.
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