研究概要 |
1.ハタンポ属の分類学的再検討オーストラリア・ニュージーランドに所在する4博物館機関とオランダのNatUralis-National NatUurhistorisch Museum(ライデン),神奈川県立生命の星・地球博物館を訪問し,標本を観察した.また,ケアンズ,クライストチャーチ,パースでは標本の採集を試み,パースにおいてPempheris multiradiataとP.klunzingeriの2種を採集した.南大東島で採集したハタンポ属は,他の全ての同属他種と異なる形態学的特徴を持つことが示されたため,未記載種P.ufuagariとして記載した. 2.ハタンポ属魚類の系統と進化パースで採集した2種に加え,SAIABから借用した標本からDNAを抽出し,これまでに採集した標本とともに分子系統樹を作成した.ミナミハタンポP.schwenkiiが,琉球列島と日本本土,インド洋で遺伝的に大きく異なることが示され,別種とすべきであることも示された.一方で,ミナミハタンポと同様にインド・太平洋に広く分布するリュウキュウハタンポP.adustaは,太平洋の個体群間のみならず,インド洋と太平洋の間でも遺伝的差異が非常に少ないことが明らかとなった. 3.ハタンポ属魚類の生活史沖縄県美ら海水族館で飼育されているミナミハタンポの水槽内観察実験を行った.みられた行動パターンを6つに分け,水槽内の洞窟との距離や照度との関係を明らかにし,本種の昼から夜の間の行動の変化,および産卵行動を観察した.この結果,一度,産卵が観察され,それに伴う行動の変化も明らかになりつつある.今後は,ここで見られた行動を再度,観察することで一般化し,自然下でも同様の結果が得られるか野外での観察を行っていく予定である.また,継続的な生活史に関する研究から,ミナミハタンポはリュウキュウハタンポと比べて生活史サイクルが短いことが示された.この結果は,両種における種の細分化の有無と関係する遺伝的差異の起こりやすさと密接に関係している可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大東島・小笠原島で採集された標本をもとに,Pempheris ufuagariを記載したこと,ミナミハタンポの分布や種をわける必要性が示されたことで,日本におけるハタンポ属魚類の分類学的混乱がほぼ整理され,その分布状況の詳細も明らかになった.また,オーストラリアだけでなく,南アフリカの標本についてもDNA用の標本を収集することが出来た.野外での産卵の観察は出来なかったが,水槽内での産卵行動が観察できた.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,沖縄島でのフィールド調査による初期生活史と産卵生態の解明を試みる.これまで,加入稚魚のスケッチや美ら海水族館との共同で水槽内観察などは行えたが,野外での産卵の観察例は未だない,そこで,野外において夜間の観察調査を行う予定である.また,これまでに明らかになったハタンポ属魚類の分類学的・分子遺伝学的知見を積極的に発信していく予定である.ただし,これまで日本のなかでも小笠原諸島については,未だ種組成や日本本土や琉球列島との遺伝的関係について不明な部分が数多く残されていることから,小笠原諸島において標本の観察を行う予定である.
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