研究概要 |
個体の発生期において、神経系及び血管系の発生メカニズムは多くの点で共通である。一方、成体脳では神経系及び血管系が完成しているが、神経幹細胞から産生される新生ニューロンは血管と相互作用することが報告されており、成体脳における神経血管相互作用の重要性が示唆されている。我々は嗅球ニューロンのターンオーバーが血管近傍で生じることを見いだしたので、嗅球ニューロンのターンオーバーの場所を規定する血管性ニッチの分子基盤を解明することを本研究の目的とした。1年目は、ターンオーバーの特性及び微小環境を明らかにすることを目的とした。1.二光子顕微鏡を用いて、生きた動物で血管近傍の嗅球ニューロンのターンオーバーを解析する。VGAT-Venusマウスに全身麻酔下でイメージング手術を施し、眼底静脈に蛍光試薬Rhodamine-dextranを注入して、生きたまま血管近傍の嗅球ニューロンターンオーバーを解析する系を確立した。2.嗅球ニューロンの入れ替わりやすさと血管との関係を解析する。生きたマウスで狙った嗅球傍糸球細胞を選択的に焼灼する方法を学術誌にて報告した(Sawada et al., J, Neurosci.,2011)。固定脳を用いた組織学的解析では、嗅球新生ニューロンを及び細胞死をBrdU及びssDNAで検出し、血管近傍でターンオーバーが生じていることを定量的に示した。3.ターンオーバーの微小環境を明らかにし、新生ニューロンと相互作用する細胞種を同定する。嗅球ニューロンと相互作用する細胞種を同定するために、各細胞マーカーを用いた免疫染色を行い解析した結果、傍糸球細胞が血管近傍のアストロサイトのプロセスによって密に包まれている構造が存在すること、ミクログリアのプロセスが新生ニューロン及び細胞死を起こしたニューロンと頻繁に相互作用していること、を明らかにした。このメカニズムを制御する候補分子を免疫染色法で探索した結果、PlexinD1が糸球体へ移動する新生傍糸球細胞に特異的に発現することを見いだした。次にPlexinD1 shRNAをコードするレンチウィルスを作製し、脳室下帯へ注入して新生傍糸球細胞の移動~成熟過程に与える影響をin vivoで調べた。その結果、PlexinD1をノックダウンした傍糸球細胞は、嗅球糸球細胞層への移動が有意に抑制されることを明らかにした。次年度は、この分子メカニズムと血管及びグリア細胞との相互作用について詳細に解析を進める予定である。
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