研究概要 |
本研究の目的は、これまで人類学や経済学において広範な社会規範維持のための行動として捉えられてきた"非協力者への罰行動"の心的基盤と適応基盤を検討することにある。本研究プロジェクトでは,非協力者への罰行動の適応基盤を検討する研究の戦略上、非協力者への罰を"特定の二者関係において生じる罰(二者罰)"と、"特定の二者間を越えたN人関係において生じる罰(N人罰)"に区別する。そして、二者罰が"他者に強さを示し、搾取を防ぐ適応基盤",N人罰が"公正さを重視する相手として選ばれる適応基盤"に基づくという仮説のもと、これまで社会秩序の維持のための行動と一元的に捉えられてきた非協力者への罰行動のいくつかが異なる心理的・適応的基盤を有する可能性を示すことを目的とする。本年度は、二者罰が他者に強さを示す地位の維持を基盤とした行動であるかを検討するために、支配的行動と関連すると考えられている男性ホルモンのレベル(胎児期の男性ホルモン量を反映するといわれる第2指と第4指の比(2D:4D)の計測を通して検討)との相関関係を探る目的の実験を実施した。その結果,本年度に行った実験では,二者罰の行使と男性ホルモンのレベルとの間には有意な相関関係は見られなかった。測定方法をより精緻な方法に変更して追試を行うことが今後の課題として残されている。また,N人罰が"公正さを重視する相互作用の相手として選ばれる適応基盤"に基づくのならば、その行動は他者から自分の行動が評価される場面においてより促されるだろうという仮説を立て、N人罰が他者からの観察がある場面でより促されるかどうかを検討する目的の実験を行った。実験の結果,不公正に対してあまり怒りを感じなかった参加者の間において,観察の手がかりがあると不公正他者に対してより罰を行使するという評判の懸念による罰の促進が見られ,仮説を一部支持する結果が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は,本研究課題である"非協力者への罰行動"の適応基盤を検討する目的の実験研究,具体的には罰行動のタイプの違いによって他者との相互作用の中で得られる利益の種類に違いがあるかどうかを検討する目的の実験を遂行する予定にある。参加者同士で相互作用を行う実験を実施するためのインフラは既に整っており,実験材料等の準備を綿密に進めた上で遂行する予定である。
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