研究課題
本研究の目的は、これまで人類学や経済学において広範な社会規範維持のための行動として捉えられてきた"非協力者への罰行動"の心的基盤と適応基盤を検討することにある。本研究プロジェクトでは,非協力者への罰行動の適応基盤を検討する研究の戦略上、非協力者への罰を"特定の二者関係において生じる罰(二者罰)"と、"特定の二者間を越えたN人関係において生じる罰(N人罰)"に区別する。そして、二者罰が"他者に強さを示し、搾取を防ぐ適応基盤",N人罰が"公正さを重視する相手として選ばれる適応基盤"に基づくという仮説のもと、これまで社会秩序の維持のための行動と一元的に捉えられてきた非協力者への罰行動のいくつかが異なる心理的・適応的基盤を有する可能性を示すことを目的とする。前年度は主に二者罰の心理・適応基盤を探る目的の研究に着手したのに対し、本年度はN人罰の心理・適応基盤を探る目的の研究に中心的に取り組んだ。N人罰と二者罰はそれぞれ異なる動機に基づくか、またN人罰はいかなるタイプの評判の手がかり-自分の行動が後で他者から評価される状況-に影響を受けるのかを行動実験と質問紙実験を通して検討した。実験の結果、自己の強さをアピールしたいという欲求が強い役割を果たしている二者罰に対し、N人罰は強さのアピールとは別の公正感情が主要な役割を果たしている可能性が示唆された。また、実験研究の結果、N人罰は他者から"強い人間である"と思われるか否かとは無関係に生じる可能性が示された。更に、自己利益の保持に基づく罰-"自分は強い人間である"ということを示す動機に基づく二者罰一よりも、こうした公正感情に基づく利他的な罰-"集団内の非協力者を懲罰したい"という動機に基づくN人罰-は、共同体のメンバーからポジティブな評価を受ける可能性にあることが質問紙研究の結果から示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は昨年度に実施した実験研究を国内・国際学会で発表すると共に、研究の一つを投稿論文にまとめ現在査読中の段階にある。現在は最終年度である来年度の総括に向けて、フォローアップの実験研究の準備の段階にある。以上より、本研究計画は研究業績というかたちで成果に結びつきつつあると共に、最終年度に向けた準備にも取り掛かれており、順調に進んでいるといえる。
最終年度では、それぞれのタイプによる罰行動が相互協力の達成を実現させる機能を有するかを探る目的の研究に着手する予定である。最終年度の研究の成果を基に、これまでの実験結果を合わせて学会で発表ないしは投稿論文としてまとめることを計画している。
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