研究課題/領域番号 |
11J02760
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
諏訪 僚太 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | 海洋酸性化 / 初期生活史 / ウニ類 / 高精度海水CO2濃度制御 / 環境影響評価 |
研究概要 |
今年度は主に以下の4つの研究事項についての実験を実施した。 1.精密CO2濃度制御措置を用いた低領域CO2濃度条件の作成 大気中からCO2を取り除いた空気と純CO2ガスを流量制御器により混合したものを海中に溶解させ、CO2濃度を非分散型赤外線分析法により測定する方法を用いて海水中のCO2濃度を連続的に制御した。その結果、現在の大気CO2濃度400ppmよりも低い230ppmから高CO2濃度条件である3000ppmまでのCO2濃度の海水を作成できることを確認した。さらに本研究の目的である低領域CO2濃度(230ppmから600ppm)については全炭酸・アルカリ度測定による濃度条件の確認も行った。 2.低領域CO2濃度暴露実験 ムラサキウニ、バフンウニの産卵期において成熟した個体を採集し産卵誘導を行った。採取した配偶子を授精させたものを上記の方法で作成したCO2濃度条件にプラスチック容器内にて3日間暴露した。受精卵から各CO2条件に暴露したウニ幼生は回収後にホルマリン固定し、顕微鏡下にて写真撮影を行った。撮影画像はPC上にて画像解析ソフトを用い形態サイズを測定した。その結果、230ppmと430ppmの2条件に曝したバフンウニ幼生では全長と後腕長、体長においてCO2濃度が高い430ppm条件においてより長さが短くなる統計的に有意な変化がみられた。300、400、500、600ppmの4条件に曝したムラサキウニ幼生では全長と後腕長においてCO2濃度が高くになるにつれて長さが短くなる傾向がみられた。この結果については現在論文投稿の準備の最終段階にある。 3.日周変動CO2濃度条件の作成 自然条件下では海中におけるCO2濃度は日周変動をすることが知られている。そのためCO2濃度が日周変動する条件と、その影響を調べるために日周変動条件におけるCO2濃度の最低値と最高値及びこれらの中間値を作成した。作成した濃度条件は400、600、800、1000ppmのCO2濃度を固定した条件と、600ppmと1000ppmを12時間毎に行き来する日周変動条件の合計5条件であり、日周変動条件においては非分散型赤外線分析法による測定値の平均が797±200ppmとなり高精度に作成することができた。 4.日周変動CO2濃度暴露実験 バフンウニから採取した配偶子を用いて上記低領域CO2濃度暴露実験と同様に実験を行い、実験後に回収した幼生サンプルの形態を現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では将来予測される大気中CO2濃度上昇が海洋生物に及ぼす影響を正確に評価することを目的としており、本年度は現在の大気CO2濃度に近い低領域CO2濃度条件及び自然条件に近い日周変動を考慮したCO2濃度条件に伴う海洋酸性化の影響についてウニ幼生を用いて評価した。前者については、得られた成果は現在国際誌への投稿用論文として準備の最終段階にある。後者については実験条件の作成は進んでいるものの、CO2制御装置で作成し測定しているCO2濃度条件が幼生を暴露するプラスチック容器内にてどの程度反映されているめかの判定が難しく、その生物影響を正確に評価するためには改良が必要だと言える。前者と後者の進み具合を考慮すると本年度の研究計画の達成度は90%程度と言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画はウニ幼生への海洋酸性化影響のメカニズムと新たなストレス指標の探索にある。これらと共に、現在ほぼ確立しているCO2濃度制御系とストレス暴露実験系を用い、本研究の目的である海洋生物についてのより正確な生物影響評価のために、ウニ類以外の浅海域の無脊椎動物、例えば造礁サンゴ類、貝類についても影響評価を行っていきたい。また、現在の実験におけるストレス暴露用プラスチック容器内のCO2濃度が海水サンプルを時間をかけて解析するまで不明瞭な点については新たに小型の海水用CO2センサーを用いてCO2濃度をリアルタイムに測定することでこの問題点を解決していきたい。論文発表や学会発表等の機会についてもより増やしていきたい。
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