研究概要 |
研究の背景と目的 恋人,配偶者,友人といった親密な他者との関係は,個人の幸福の基盤となる。親密な関係は,個人の快楽的幸福度(hedonic well-being;快楽の享受・苦痛の回避)と達成的幸福度(eudaimonic well-being;個人的な成長・自己実現)の両方を高めると考えられる。このような関係には,安全な避難所機能と安全基地機能という2つの愛着機能が備わっているからである(Bowlby,1988;Feeney,2004)。 今年度の研究では,親密な二者間で共有された効力期待である関係効力性(relational efficacy)が,快楽的幸福度と達成的幸福度を促進するメカニズムを解明することを目的とした。 研究の具体的内容 上記の目的を達成するため,ソーシャル・サポートの利他性(相手への思いやりに基づき積極的に提供し合うサポート)と互恵性(相手からの見返りを期待して提供し合うサポート)を取り上げた。 東海地方にある5つの大学にて,恋愛カップルと同性友人ペアを対象に対した質問紙調査を依頼した。その結果,恋愛カップル105組と同性友人ペア137組から有効回答を得た。これらのデータに対して,マルチレベル構造方程式モデリングによる分析を行った。この手法を用いることで,二者関係レベル(二人の間で共有された次元)と個人レベル個々人の心で完結した次元)のプロセスを分けて検討することができる。 分析の結果,恋愛カップルや同性友人ペアの関係効力性は,ソーシャル・サポートの利他性を媒介して快楽的幸福度と達成的幸福度を高めることが示された。また,この傾向は二者関係レベルのみでみられた。 研究の意義 本研究の学術的意義は,親密な関係が個人の幸福を高める理由をより精緻化できたことにある。関係効力性の高いカップルやペアは,積極的に支え合うからこそ互いを幸せにできると考えられる。社会的意義は,親密な関係における幸福が,個人レベルよりも二者関係レベルのプロセスに基づいて高まると提言できることにある。これは,たとえネガティブな自己概念やパーソナリティ特性を持つ人であっても,幸せになれることを示唆している。
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