単一シナプスレベルでの神経回路編成機構を明らかにすることを目的として、シナプス後膜グリシン受容体の局在と機能的変化の検討を行ってきた。本研究におけるこれまでの実験結果から、グリシン受容体活性化に伴って、それらがシナプス後膜に集積して機能的に働くことが示唆された。そこで、平成25年度はその現象の制御機構に焦点を当てて研究を進めた。具体的には、従来同様、マウス脊髄由来の初代培養細胞を対象とし、細胞膜上のグリシン受容体を特異的に可視化するためにpH感受性GFP付加DNAコンストラクトを用いて、光褪色後蛍光回復法(FRAP)による検討を行った。また、グリシン受容体は、特異的な細胞内足場タンパク質(ゲフィリン)との結合により、細胞膜上での局在が変化する。そこで、赤色蛍光タンパク質を付加したゲフィリンを共発現させ、ゲフィリンの局在が確認された小領域におけるグリシン受容体の移動性を確認した。すると、ゲフィリン局在領域では、グリシン受容体の移動性が有意に減少することが認められた。そこで、グリシン受容体とゲフィリンとの結合を変化させることが予想される因子について、各種の選択的阻害剤を用いて解析したところ、グリシン受容体のシナプス集積はキナーゼの活性に依存することが認められた。 更に、こうしたシナプスでのグリシン受容体集積は、従来、細胞内塩化物イオン濃度が高い幼若期の神経細胞で生じる現象であると考えられてきた。しかし、グラミシジン穿孔パッチクランプ法による解析から、細胞内塩化物イオン濃度が低い成熟した細胞においても、グリシン受容体のシナプス集積が起こることを見出した。
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