研究概要 |
胎内で放射線被爆することにより,高頻度に小頭症を発症することが知られている。放射線はDNAの二重鎖切断(DSB)を誘導し,またDSB修復機構やゲノム安定性の維持に先天的な異常を持つ多くの患者において小頭症が認められることから,DSB修復機構やゲノム安定性の維持と小頭症には密接な関係があると考えられている。しかし、疾患モデル神経幹細胞が樹立されておらず小頭症の発症メカニズムは明らかになっていない。 本年度では,人工制限酵素zinc-finger nudease(ZFN)を利用した遺伝子改変システムの確立とそれを利用したヒト疾患モデル細胞株を作製する目的で,以下の通り研究を実施した。ZFNはDNA結合ドメインとDNA切断ドメインからなる人工タンパク質で,任意のDNA塩基配列領域へDSBを導入できる。DSBは細胞内で速やかに修復されるが,外来のターゲティングベクターとDSB周辺領域で相同組換え修復が起こることで,レポーター遺伝子が特定遺伝子座へと効率的に導入されることが知られている。そこで、ZFN作製システム(Ochiai et al,2010)を利用して,小頭症原因遺伝子の一つであるBUB1B遺伝子領域に標的を持つZFNを作製した。このZFN発現ベクターとターゲティングベクターをヒト骨肉腫細胞U2OSおよびヒト直腸結腸癌細胞HCT116に共導入したところ、それぞれの細胞系譜のいくつかのクローンで標的部位に外来遺伝子が挿入されていることを確認した。このことから、ZFNを利用することで、ヒト培養細胞において効率的に特定遺伝子領域に外来遺伝子を挿入することが可能であることがわかった。今後この技術を利用し、小頭症発症に関係する遺伝子を破壊したヒト疾患モデル神経幹細胞の作製を試みる予定である。
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