研究概要 |
胎内で放射線を被爆することで,高頻度に小頭症を発症することが知られている。また放射線はDNA二重鎖切断(DSB)を誘導し,DSB修復機構やゲノム安定性の維持に先天的な異常を持つ患者の多くにおいて小頭症が認められることから,DSB修復機構やゲノム安定性の維持と小頭症には密接な関係があると考えられる。しかし,疾患モデル神経幹細胞が樹立されておらず小頭症の発症メカニズムは明らかになっていない。 昨年度に、人工ヌクレアーゼzinc-finger nuclease (ZFN)を利用してヒト培養細胞に小頭症の原因遺伝子領域へ外来遺伝子の導入を試みたが,効率が低く,両対立遺伝子に導入した細胞株を樹立することができなかった。 本年度では,ZFNよりも結合特異性が高いとされる人工ヌクレアーゼtranscription activator-like effector nuclease (TALEN)を利用したゲノム編集技術の利用を検討した。まず,機能的なTALENを作製するために,ポリメラーゼ連鎖反応を利用した簡便なTALEN作製システムを確立した。このシステムを利用して,小頭症原因遺伝子の一つであるBUB1B遺伝子領域に標的を持つTALENを作製した。このTALEN発現ベクターとターゲティングベクターをヒト直腸結腸癌細胞HCT116に共導入し,薬剤選抜を行った。その結果,覧得られたクローンのほぼすべてが少なくとも片アレルに外来遺伝子の挿入が確認され,さらに約1/20のクローンで両アレルに外来遺伝子の挿入が認められた。このことから,TALENを利用することで,ヒト培養細胞において高効率で特定遺伝子領域に外来遺伝子を挿入することができることがわかった。今後この技術を利用し,小頭症発症に関係する遺伝子を破壊したヒト疾患モデル神経幹細胞の作製が期待できる。
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