研究課題
本研究課題の目的は、斜め読みを可能にするような、迅速で効率的な読み(文脈把握)のメカニズムの解明である。これまでの研究では、人は眼球も動かせないほど短時間だけ文を見た場合であっても大まかな文脈を把握できることが示されている。このことから、一字一句単語を順に読んで文を組み立てるのではなく、文中の複数の単語の意味情報を並列的に処理することによって、ごく短時間で原型的な文脈表象(プロト文脈)が活性化されるメカニズムがあると考えられる。本研究ではプロト文脈の性質、特に非言語的な視覚表象との関係の解明を目指している。プロト文脈仮説は日本語を扱った実験結果に基づいて構築されたものであるが、日本語は世界的に見て特殊性を多く持つ言語であるため、プロト文脈仮説が日本語にしか当てはまらない可能性も否定できなかった。そこで現在は従来の実験方法に改良を加え、脳波も計測するなど指標を増やし、複数言語でプロト文脈仮説の妥当性の検証を進めている。平成24年度はまず、平成23年度にイギリスで英語話者を対象に行ったプロト文脈仮説の検証実験の結果を精査した。その結果、プロト文脈仮説の基本部分が日本語だけでは無く英語にも当てはまる、すなわちプロト文脈仮説によって、英語における迅速な読み処理も説明できることが示された。しかし一方で英語を対象とした実験からは、統語情報がプロト文脈の脳内処理に影響するという、従来のプロト文脈仮説の一部修正を迫る結果も得られた。そこで平成24年度はさらに日本語話者を対象に、英語話者を対象にしたものと全く同様の脳波測定実験の日本語版を実施し、日本語と英語の脳波データを比較することによって問題点の究明を進めた。平成25年度も引き続きこの検討を続けており、この作業が完了することによって、プロト文脈仮説が大きく改良されることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、平成24年度中に日本語でのプロト文脈仮説の検討を終え、プロト文脈と非言語的視覚処理の関係についての検討実験に入る予定であった。しかし英語を対象にした脳波測定実験の結果から仮説を一部修正する必要があることが判明し、現在日本語でのプロト文脈仮説の検討を慎重に進めている。そのぶん実験の進行にやや遅れが生じているが、根幹である仮説の改良が進んでいるため、おおむね順調に進展していると言える。
英語話者を対象としたプロト文脈仮説の検証実験の結果は、当該仮説の一部についての修正を迫るものであり、大変興味深いものである。今後はまず、平成24年度に引き続いて、日本語でのプロト文脈仮説の脳波計測手法を用いた検証を進め、英語を対象とした場合の実験結果と比較検討することでプロト文脈仮説の改良をする。そのうえで、プロト文脈と非言語的視覚処理の関係性を進め、プロト文脈仮説を完成させる。研究成果は学会発表や学術論文の形で積極的に世の中に発表していく予定である。
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Journal of Psycholinguistic Research
巻: (印刷中)(オンライン先行公開済)
10.1007/sl0936-013-9244-8
Consciousness and Cognition
巻: 21 ページ: 983-993
10.1016/j.concog.2012.02.005