研究概要 |
葛藤解決行動は、動物が社会的文脈において発揮する認知能力(社会的知性)を明らかにする上で、非常に興味深い研究対象である。対立する2者間で、目的を調和させ、争いをうまく調整する行動は、ヒトを含む社会的動物において、普遍的に存在し、多くの類似性を持つ。そこで本研究では、ニホンザルを対象として、協力的関係を築くための、葛藤解決メカニズムを明らかにすることを目指す。そのために、2種類の異なる葛藤場面に注目し、ニホンザルがそれぞれの葛藤を解決するために、状況に適した行動をしているのかを明らかにする。 1つの葛藤場面として、攻撃交渉後のニホンザルの行動を調べる。動物の2個体間において、攻撃交渉の後で行われる毛づくろいなどの親和的行動は仲直り行動と呼ばれる。仲直り行動は、攻撃行動の後に必ず行われるわけではない。例えば、ニホンザルでは、仲の良さや、争いの原因などの要因が、仲直り行動の生起に影響している(Majolo et al,,2009)。これまでの研究では、どのような状況で仲直りするのかということが問題視され、サルが、仲直りの際に行動を使い分けているとは考えられてこなかった。ヒトは、身体接触以外にも、「ごめんなさい」と言葉で仲直りする。申請者が先行研究で示したことだが、葛藤を調整する行動は、親和行動だけではない。ニホンザルは状況や相手に応じて、葛藤を解決する行動を選択しているのではないだろうか。本年度の研究では、ニホンザルが親和行動以外の行動でも、仲直りしているのかを検討する。 もう1つの葛藤場面は、毛づくろいを要求したにもかかわらず、毛づくろいを受けられない場面である。サルは頻繁に、相手に自分の体を向けて、毛づくろいをしてもらおうと催促をする。相手は、催促に対して協力的に毛づくろいする場合もあれば、しない場合もある。当該の2個体間での、意図の不一致から生じる葛藤を、どのように解決しているのか調べることで、サルがどのようにして協力的な社会関係を築いているのかを明らかにすることができる。また、サルが社会関係をどのように認知しているかを明らかにすることにもつながる。研究2では、毛づくろいのお返しがない場合、ニホンザルがどのように行動するのか調べ、以下の点を明らかにする。そして、サルは、見返りを求めて毛づくろいしているのかどうか、どのようにして、毛づくろいしてもらえる協力的な関係を築いているのかを検討する。 平成24年度は、研究課題を遂行するためのデータ収集を行った。1年間で合計241日神庭の滝ニホンザル観察所(岡山県真庭市)に滞在し、勝山ニホンザル集団の観察を行った。その間、30頭のメスに関して、ビデオカメラを用いて1頭あたり15時間程度のデータ収集を行った。また、データ収集と並行して、データの分析も行っている。
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