研究課題/領域番号 |
11J02965
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨士 泰期 京都大学, 農学研究科, 特別研究員DC1
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キーワード | エスチュアリー / 成育場 / 初期生活史 / スズキ |
研究概要 |
(1)浮遊期・着底期仔稚魚の定量採集調査を2012年2-3月に行うとともに、2007年以降の過去の同様の調査のサンプルについて解析を行った。その結果、着底仔稚魚量を浮遊仔魚量で割って算出した「加入指数」が2月の由良川河川流量との間に有意な正の相関を示した。その仕組みとして(1)河川水流入によるエスチュアリー循環流の強化に伴う仔魚の効果的な輸送(2)河川水流入による海域における生産の強化、の2つの可能性が想定された。 (2)由良川河口域における稚魚採集調査を2011年4月から7月まで行った。稚魚の耳石を解析したところ、河口域周辺に集まった稚魚のうち、成長の悪い個体が河川を遡上し、成長の良い個体は海域に留まることがわかった。遡上後は河川内の稚魚の方が摂餌量が多く成長も良いために5月以降体長が海域個体に追いついた。また環境中の餌生物の密度は、4月に海域で高く5月に逆に河川内で高くなった。以上より、晩春より初夏にかけてスズキ稚魚にとって河川内の方が好条件となり、これが河川に遡上したスズキの好成長を支えていると考えられた。 (3)大阪湾淀川河口域における稚魚採集調査を2011年および2012年3月に行った。そして、(1)河川内及び海域の両方に分布する。(2)肥満度の低い個体が河川内に分布し、高い個体は海域に分布する。(3)摂餌量は河川内の方が大きい。という特徴が明らかとなった。これらの特徴は由良川河口域における生態とよく一致し、スズキの初期生態において重要な意味を持つと考えられる。 (4)2011年1月、2月に丹後海の定置網で漁獲されたスズキ成魚の耳石を摘出した。また、由良川河口域で採れた稚魚についても耳石を同様に取り出し、これらのSr/Ca比を解析した。稚魚の耳石Sr/Ca比は河川内と海域とで異なる値を取り、河川滞在の指標としてSr/Ca比は有効であると考えられた。成魚についても同様に測定したところ予備的ではあるが、約4割の個体で稚魚期の河川滞在を示す値が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、エスチュアリーにおける沿岸性魚類の稚魚の成長、餌環境、生残などに加えて稚魚のエスチュアリーの利用度の定量的な評価を行う。今年度は積極的に観測・サンプリングを行うことで、成長、餌環境について結果を得ており、その成果の一部は国際学術誌に掲載された。また、耳石Sr/Ca比による稚魚の利用割合の定量評価についても予備的な結果を得ている。さらに淀川河口域における観測を行い、海域間の際についての結果も得られている。加えて当初は想定していなかった浮遊期の仔魚の生残と河川流量との関係についても興味深い結果が得られており、研究はさらなる広がりを見せている。主に残された課題として稚魚の生残の評価があるがそれについては次年度以降の主な課題となる。以上より現時点で本研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の成果として、スズキはエスチュアリーを利用するより前の段階からすでに河川の影響を受けて生活していることが明らかとなった。すなわちスズキは沿岸性魚類であるにかかわらずその初期生活史のあらゆる段階で河川と深くかかわっていることが想定される。次年度以降この点にも注目し、エスチュアリーを利用する稚魚期のみならず、浮遊仔魚期、着底仔稚魚期も含めて河川とのかかわりを解析することで、よりスズキと河川のかかわりを総合的に明らかにしていく。
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