研究課題/領域番号 |
11J02965
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨士 泰期 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | エスチュアリー / 成育場 / 初期生活史 / スズキ |
研究概要 |
(1)浮遊期仔魚の層別定量採集調査を2013年1-3月に行った。その結果、浮遊仔魚は表層にはほとんど分布せず、水深20m付近の中層に多いことが明らかとなった。また、同時に行ったADCPによる海流調査では、冬の丹後海の海流が表層で沖向き、中層以深で岸向きであり、エスチュアリー循環流の存在が示唆された。以上からスズキ仔魚がエスチュアリー循環流を利用して沿岸域へ加入していると考えられる。 (2)2008年から2012年までの由良川河口域で採集されたスズキ稚魚の全体長・密度データを解析し、各年の減耗率を推定した。その中で、4-6月の河川流量が多いほど減耗率が高いという関係が見られた。また、同時に密度と減耗率の間にも正の相関がみられ、密度効果の存在も示唆された。どちらが重要かを明らかにするため今後さらにデータの蓄積や詳しい解析を行う。 (3)2009年から2012年まで由良川河口域で採集されたスズキ稚魚の摂餌量及び摂餌サイズについて調べたところ、すべての年の摂餌量で海く河口域下流側く河口域上流側という関係が見られた。摂餌サイズについても同様の傾向がみられ、摂餌サイズと摂餌量の間にも正の相関がみられた。このことより、稚魚にとって大きいサイズの餌を食べることが十分な摂餌状態を実現するために重要であると考えられた。場所により餌サイズが異なる仕組みとして(1)環境中の餌サイズが場所により異なる(2)稚魚の摂餌サイズ選択性が場所により異なる、の2つが考えられた。次年度は環境中の餌サイズを詳しく解析する。 (4)2009年から2012年まで、3月から5月にかけて月2-4回のペースでスズキ稚魚の採集された場所と密度を調べた。同時に河川底層に塩分記録計を設置し、塩水遡上の様子をモニタリングした。その結果、スズキ稚魚の河川内分布範囲は塩水遡上距離により規定されており、稚魚が河川遡上に塩水遡上を利用していると考えられた。水温と遡上開始日齢との関係を調べた。その結果、高水温ほど若い日齢で遡上する傾向が見られた。さらに、遡上は有効積算温度480℃付近で開始されることが明らかとなった。以上より水温が遡上開始時期を決定する重要な要因と考えられた。 (5)これまで得られた稚魚の生き残りや成魚の成長などの結果を総合し、過去に報告されている知見も加え、丹後海におけるスズキ個体群動態モデルを作成した。その結果、過去の資源変動パターンを再現することに成功し、水温の変動が仔稚魚の生き残りを変化させてスズキ資源変動に大きな影響を与えている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度も昨年度と同様に積極的なフィールド調査を行い、昨年度までの研究結果をさらに充実させるとともに、新たな解析を行ってスズキ稚魚の生残の年変動に関する情報を得た。また、過去に文献により報告されているスズキに関する生態的パラメータ1に自分でフィールドで得たパラメータを加えることで個体群動態モデルを構築し、過去の資源変動に水温変動が重要な役割を果たしていることを突き止めた。このモデルにより将来のスズキ資源変動を予測できる可能性があり、研究は今後さらに発展していく見込みがある。以上より、期待以上の研究の進展があったと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
成長・生残等の年変動を把握するため、さらに調査を行いデータを蓄積する。それによりこれまで得られた環境と成長・生残との関係性が大きく変わらないことを確かめる。それらの結果を用い、個体群動態モデルをより現実的なものに仕上げ、将来的な環境変化に対するスズキ個体群の応答予測を行う。
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