立位中の前後の姿勢制御活動は、1. 随意的に体幹を傾ける、2. 上肢運動に先行して予測的・無意識的に行われる、というように、同様の運動制御コマンドが異なるコンテキストで行われる。本年度は、この異なるコンテキスト間で行われる姿勢制御活動の間で、運動学習機構が共通しているかあるいは独立しているかを調べる研究を行った。もしこれらの間で運動学習機構が共通しているとすると、あるタスクで学習された予測的な運動が他のタスクに般化することが期待される。本研究では、前後方向の姿勢制御が開始されると横方向に可動式のプラットフォームを移動させた。このプラットフォームの移動に被験者が慣れてくると、被験者は前後方向の姿勢制御タスクを行う際に予測的に横方向にも姿勢制御を行い、結果として前方に体を傾ける際には右斜め前に、後方に体を傾ける際には左斜め後ろへの姿勢制御を行うようになった。しかしながら、学習された姿勢制御は腕挙げのタスクには般化しなかった。 これは、自発的かつ意識的な姿勢制御と腕挙上に伴う無意識的な姿勢制御が、独立した運動学習メカニズムを有していることを示唆している。臨床的には、意図的に体を倒すという動作と、ものを取るといった日常動作に付随して行われる姿勢制御とは運動学習機構が異なるため、その両方を訓練する必要があるということを示唆しており、臨床研究を行っている研究者や医師やセラピストに重要な示唆を与えた。
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