研究課題/領域番号 |
11J02998
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上村 一貴 名古屋大学, 医学部・保健学科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 高齢者 / 転倒 / 姿勢制御 / リハビリテーション / 注意 / 認知機能 / ステップ動作 / 予測的姿勢調節 |
研究概要 |
本年度は、転倒リスク評価により適切な動作課題および認知課題を検討、選定するため、健常若年者を対象とした予備実験的研究から開始した。プレ実験を繰り返したうえで、試行数や実験デザインを検討した。健常若年者20名を対象に、選択的注意課題(Flanker task)を反応課題として、動作開始時における姿勢調節を分析した。具体的な分析として、ステップ動作時の各イベント(動作開始、離地、接地)について時間因子を算出する従来行われてきた解析に加え、予測的姿勢調節の方向のエラー、すなわち体重移動方向の判断ミスを検出する最新の方法を取り入れた。分析の結果、若年健常者においても、選択的注意課題における視覚的干渉によって、予測的姿勢調節のエラーが増加すること、またエラーが生じた場合に予測的姿勢調節相およびステップ動作時間が遅延することが明らかになった。 第2段階として、高次注意課題に対する姿勢反応に加齢が及ぼす影響を明らかにするため、若年者、高齢者の比較を行った。高齢者は、名古屋市シルバー人材センターに依頼することで、21名を対象に実験を行った。選択的注意課題に対するステップ動作実験に加え、各種認知機能検査や運動機能検査を行い、運動・知覚・認知機能の低下との関連性を分析した。線形混合モデルを用いた分析の結果、高齢者は若年者に比較して、予測的姿勢調節のエラーが生じやすいだけでなく、一度の判断ミスによるその後のステップ動作の遅延の程度が顕著に大きいことが明らかとなった。また、高齢者では若年者に比較して、選択的注意課題に対する場合でも反応相が延長しにくい、すなわち判断に十分な時間をかけずに動作を開始してしまう傾向が見られた。この結果から、高齢者では性急な判断がその後のパフォーマンス低下につながる可能性が考えられ、慎重な判断や反応相に重きを置いた座位での安全なトレーニングが有効である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究結果に関しては、2本の英語論文を作成しており(一本投稿済み)、成果としては当初の計画より進展していると考える。大規模な疫学的調査は完了していないものの、フィールド、および測定機会を確保済みであるため、全体としておおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
高齢者を対象とした実験により、加齢による影響は明らかになったが、認知機能障害の影響および転倒リスクとの関連性はわかっていない。次年度から開始する大規模疫学的研究の対象は、地域在住の軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment)高齢者400名とする。本研究により、MCI高齢者の転倒リスク因子を明らかにし、リスク評価方法やトレーニング方法開発に発展させていく。
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