研究課題/領域番号 |
11J02998
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上村 一貴 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員
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キーワード | 高齢者 / 転倒 / 姿勢制御 / リハビリテーション / 注意 / 認知機能 / ステップ動作 / 予測的姿勢調節 |
研究概要 |
本研究の目的は,1)転倒リスクの高い高齢者の身体機能低下の特徴について明確にすること,2)高齢者の転倒予防に効果的な運動療法を開発し、その効果を検証することである。本年度は、初年度に開発した転倒リスク評価指標である、「選択的注意課題に対するステップ反応分析」を用いて、転倒ハイリスク集団である。軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)を対象とした実験を行った。 5104名の地域在住高齢者に対して認知機能検査を行い、軽度認知障害の基準に当てはまる高齢者を選定し、376名を対象にステップ反応時間分析を行った。結果、転倒経験のある対象者では、歩行速度などの一般的な運動機能検査や上肢での選択注意課題反応時間には低下がみられないが、潜在エラーによりAPA相が遅延していることが明らかとなった。MCI高齢者の転倒リスクは、従来までの運動機能や認知機能の個々のパフォーマンス評価では検出不可能であった。これに対して、選択的注意課題に対するステップ反応分析では潜在エラー、すなわち運動時の判断ミスの影響が、予測的姿勢調節の遅延として顕在化したため、転倒リスクを検出可能であったものと考えられる。 これまで、転倒ハイリスク集団であるはずのMCIに特化した転倒リスク評価や転倒予防プログラムに関する報告は皆無であり、認知機能低下が実際の動作場面でどのように転倒リスクにつながるかは明らかでなかった。また、従来の転倒リスク評価には、歩行速度や筋力などパフォーマンステストが多いが、運動時の判断力や注意機能に焦点をあてた報告は少ない。本研究では、運動と認知の両方を要求し、運動の場面における注意、判断の過程に負荷を加えるという独創的な評価指標を開発し、MCIの具体的な転倒リスク要因を初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果に関しては、3本の英語論文を作成し、うち1本は採択済みであり、他の2本についても投稿済み、あるいは修正中であり、期待通りと考えられる。また、開発したプログラムの効果検証のための介入研究は完了していないものの、現在進行中であり、全体としておおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、転倒ハイリスク集団である軽度認知障害(MCI)の転倒リスクは、座位での上肢の認知課題や反応時間では検出できず、立位において、動作開始の判断エラー(認知)と踏み出し反応時間(運動)を同時に分析することによってのみ顕在化することが明らかとなった。このことから、転倒リスクに関連する要素である、動作場面(立位)での判断力、反応に焦点をあて、MCIに特化したプログラムを開発し、MCI高齢者300名を対象とした果検証(RCT)を実施中である。
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