研究概要 |
平成23年度より開始されたKamLAND-Zen実験の二重ベータ崩壊観測のデータを解析し,136Xeの2νモードの二重ベータ崩壊の半減期を世界最高統計で測定した.加えて,ニュートリノを伴わない(Oνモード)二重ベータ崩壊の半減期の下限値を世界最高感度での制限に成功した.また,その成果を学術論文にて発表した.続いて,Majoron粒子が放出されるモードの二重ベータ崩壊についても世界最高感度で制限を行った.最終的に,KamLAND-Zen実験の1st phaseの結果として,213日のデータを用い,0νモード二重ベータ崩壊測定の解析の最適化を行い,世界最高感度でのニュートリノ有効質量の上限値を得られた.また,これらの成果を学術論文雑誌にて発表した. データ解析において,KamLAND-Zenの建設時に予期せぬバックグラウンドが混入していることが判明した.全ての放射性不安定核のリストの中から,エネルギースペクトルの形やイベントレートの時間推移等を基に110mAgがバックグラウンドの源となっていることを突き止めた.この110mAgバックグラウンドは,2.2-3.0MeVのピークスペクトルであるため,0νモード二重ベータ崩壊の直接のバックグラウンドとなる.0νモード二重ベータ崩壊への感度を高めるには,このバックグラウンドを除去する必要があり,本年度からXe及び液体シンチレータの純化作業を開始している.まず,ミニバルーン中のXeを回収した後,新しい液体シンチレータとの入替えを行った.その後,蒸溜作業を行いながら,ミニバルーン中の液体シンチレータを循環し,バックグラウンドの除去を試みた.この純化作業は,現在も継続しており,来年度中に完了,測定の再開を目指す. また,KamLANDに新たに導入されたデッドタイムフリー電子回路を用いて,0νモード二重ベータ崩壊のバックグラウンドとなる宇宙線ミューオン由来の10Cの除去の研究も引き続き行った.本年度は,PMTに宇宙線ミューオンなどの大信号が入ったときに発生するアフターパルスによる擬似パルスを取得しないように,アフターミューオントリガーと呼ばれる10Cタギングに必要な中性子事象のみにトリガーを発行する新たなトリガーロジックを開発した.この新トリガーロジックの導入により,大量の擬似パルスによるデータ損失をほぼ0にすることに成功した.また,10Cタギングのための解析手法も確立・最適化し,最終的に86%の除去効率を達成することに成功した.この新トリガーロジックを導入したDAQは,現在安定して稼働しており,純化作業終了後は,86%の効率で10Cバックグラウンドを除去できる。これらの解析的・物理的なバックグラウンドの除去作業を行い,更なる高感度での二重ベータ崩壊測定を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KamLAND-Zen実験の1st phaseとして,取得した213日のデータを用いて,世界最高感度でのOνモード二重ベータ崩壊探索の結果を発表することができた.また,競合実験であるEXO-200実験の結果を再解析,結合することで,Heidelberg-Moscow実験の一部グループが主張していた76Ge 10kgでのOνモード二重ベータ崩壊観測結果(KK-Claim)を97.5%の信頼度で排除することに成功したため.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度から行われているバックグラウンド除去のための純化作業を引き続き行い,混入した110mAgバックグラウンドを1st phaseの100分の1程度まで低減させた上で,136Xeの二重ベータ崩壊観測を再開する.加えて,本年度確立した86%の10Cバックグラウンド除去効率を更に向上させ,実際のデータ解析に適応させる.半年程度の観測時間で,KamLAND-Zen実験単独でのKK-Claimの排除することを見込んでいる.また,世界最高感度でのニュートリノ有効質量への制限も同時に行うことができる.
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