研究課題/領域番号 |
11J03094
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
金澤 雄介 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 特別研究員(PD)
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キーワード | サルデーニャ語 / ロマンス語学 / 歴史言語学 / 文献学 / 形態論 / 言語接触 / ラテン語 / イタリア:スペイン |
研究概要 |
平成22年度までおこなってきたサルデーニャ語の通時的研究では、主に動詞形態論を取り扱ったが、名詞形態論の通時的変化については未解決の問題が多く残されていた。そこで平成23年度は、名詞形態論の通時的変化についてほかのロマンス諸語における現象も視野に入れつつアプローチすることで、サルデーニャ語の変容にかかわる内的要因と外的要因の相関について解明するための基盤作りをおこなった。具体的には、古サルデーニャ語文献に実際に現れる形式、およびサルデーニャ語の音韻規則に基づいて、古サルデーニャ語で「姉妹」を表す語sorreは、ラテン語の主格(soror)と対格(sororem)の水平化によって作られたと考えられることを示し、サルデーニャ語の先史には名詞の2格体系の痕跡が残されていたと主張した。 上記の研究に加えて今年度は、言語接触にともなうサルデーニャ語の変容に関する分析を進めるための基礎的研究として、イタリア語における遠過去の形成過程について考察をおこなった。ここでは理論的な枠組みを援用し、従来の規則に基づくアプローチではとらえることのできなかった遠過去の形成に対して、統一的な説明を与えることができた。 平成23年度は現地調査の一環として、サルデーニャ島の州都カリアリと島の内陸に位置するヌーオロにおいて、サルデーニャ語カンピダーノ方言とヌーオロ方言の聞き取り調査を実施し、サルデーニャ語の共時的変容に関する今後の研究の方向性を定めた。現在は、カリアリ大学図書館およびカリアリ大司教古文書館における所蔵調査によって入手した、イタリア語、カタルーニャ語およびスペイン語の影響が見られる古サルデーニャ語写本の分析を、言語接触の観点からおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スペインで開催された国際学会でおこなった、名詞形態論の内的変化についての研究発表では、参加者から一定の評価が得られた。また古サルデーニャ語写本の分析を通して、言語接触の様相、特にクリティック(接語代名詞)の体系の変容に対してイタリア語とスペイン語が及ぼした影響ついて、先行研究では提示されていなかった事実について解明ができる見通しであることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、古サルデーニャ語写本の分析を通して、サルデーニャ語のクリティックに対してイタリア語およびスペイン語が及ぼした影響について引き続き分析をおこなう予定である。そして現代サルデーニャ語にいたるまでのクリティックの体系の成立に関する、外的要因と内的要因との相関について包括的な記述を試みる。また動詞形態論の通時的・共時的変容についてイタリア語が及ぼした影響について、これまでの成果を踏まえて考察を進めたい。 上記の研究計画を遂行するために、サルデーニャ島にある程度の期間滞在し、古サルデーニャ語文献の所蔵調査と、サルデーニャ語方言のデータ収集を実施する予定である。これらの研究の成果は、主に国際学会やヨーロッパで刊行されているロマンス語学の学術雑誌にて発表することを計画している。
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