本年度の前半は、言語接触によってサルデーニャ語に多くの影響を及ぼしたイタリア語について、最適性理論の枠組みを用いた研究を推進した。そのテーマは2つに分かれる。1つ目は、前年度から継続しておこなっている、イタリア語における遠過去の形成過程についての研究である。2つ目は、サルデーニャ語と標準イタリア語における重子音化および開音節における長母音化と、Stress-to-Weight(アクセントのある音節は2モーラでなければならない)という制約の関係について分析を試みた研究である。後者の研究では、2つの音変化に関する、両言語における制約のランキングの相違点について明らかにすることができた。イタリア語における通時的変化を理論的観点からとらえたこれらの研究は、外的要因にともなうサルデーニャ語の変容について解明するための基盤を構築したという意味で、極めて重要な位置づけにあるといえる。 本年度の後半は、古サルデーニャ語におけるクリティック(接語代名詞)の出現位置についての研究に着手した。古サルデーニャ語におけるクリティックの形態統語論的性質は、イタリア語やスペイン語との接触にともなう変容が指摘されている。現在は、クリティックにまつわる通時的、共時的変容について、その外的要因と内的要因を区別しつつ体系的に記述することに従事している。これまでの研究成果の中には、先行研究では示されていないものも含まれており、その一部を学会にて報告することが決定している。 また3月には、カリアリ大学図書館などで所蔵調査を実施した。特に古サルデーニャ語文献の写本の画像ファイルを入手したことは、今後の研究の進展に大いに役立つことが予想される。
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