研究課題
本年度は癌細胞転移阻害剤であるUTKO1の4つのジアステレオマー全てが癌細胞転移阻害活性を有することを明らかにした。UTKO1の標的タンパク質は既に我々の研究グループによって明らかにされているが、UTKO1の有する立体化学と癌細胞遊走阻害活性との関係は明らかにされていなかった。そこで、UTKO1の4種のジアステレオマーを光学的に純粋に作り分け、それらを生物活性試験に付すことによって、最も活性が強いものがどのジアステレオマーなのかを明らかにすることにした。また、光学的に純粋な化合物を用いれば、タンパク質との共結晶を得る検討にも用いることができるものと考え、それも視野に入れた。出発物質は文献既知の光学的に純粋な3,4-dihydro-α-iononeの両鏡像体とした。まずその出発原料を接触還元してtetrahydroiononeへと変換した。鏡像体過剰率はS体が99%eeでR体が96%eeだった。続いてこのtetrahydroiononeをエノールトリフラートへと導き、別途調製したアルデヒドとMHK反応を行ってカップリング体を得た。この時に新たに生じた2級水酸基の立体化学は約1:1であったが、続いて不斉補助基を導入することによってこの2級水酸基の分離を行い、光学的に純粋なUTKO1前駆体を得た。そして最後に保護基の除去を行い、得られた化合物に対して再結晶を行い光学的に純粋なUTKO1の全ての異性体を合成することに成功した。得られた4種の化合物はそれぞれの鏡像体間で比旋光度と融点が一致しており、光学的に純粋な化合物が得られていることを確認している。そして、これら4種の化合物を生物活性試験に付した結果、全ての異性体が同程度に癌細胞遊走阻害活性を有していることが明らかになった。現在は共同研究者と本化合物の共結晶を得る検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、本年度においてUTKO1の4種の異性体を光学的に純粋に合成し、全ての異性体に活性があることを明らかにできたから。
現在、更に強力な転位阻害剤の開発を目的として研究を進めている.高活性と考えられる誘導体を効串的にデザインまたは合成するために、現在共同研究者とUTKO1と標的タンパク質の共結晶を得る検討を行っている。結合様式を明らかにするのをできるだけ容易にするため、ここでは光学的に純粋なUTKO1を用いている。そしてこの実験で得られる結合部位や結合様式の情報を基にして、更に高活性な化合物をデザインして合成する予定である。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 286 ページ: 39259-39268
doi:10.1074/jbc.M111.255489