研究課題
銀河団外縁部は、銀河団質量の半分以上を占める領域であり、観測的宇宙論におけるダークマターの制限において重要な意味を持つ領域であるほか、今もなお銀河団の外側からのガス降着により加熱が進んでいる構造進化の最前線である。しかし、銀河団外縁部は中心に比べ一万分の一の表面輝度を持つ非常に暗い領域であるがために、これまで観測的に調べることが困難であった。「すざく」衛星のXIS検出器は、これまでの検出器に比べ半分程度のバックグラウンドレベルを実現することから、初めて観測することができるようになった領域である。本年度、私は「すざく」衛星での銀河団外縁部の観測データアーカイブのうち、解析可能な15天体の統一的な解析を始めた。解析の方針は、「すざく」とXMM-Newton,Chandra衛星の観測をあわせることで銀河団の熱化がすすんだビリアル半径全領域の温度と密度構造を解明することにある。このうち、Abell 2104銀河団について、「すざく」とChandra衛星での解析から中心から外縁部までの温度、密度構造が明らかになってきた。そして、Abell 2104銀河団は、中心が熱い近傍銀河団が与えるガスとダークマターの質量の比が平均値の10-20%に比べ非常に低い5%程度であることが分かってきた。この原因として、ダークマターが未だ降着の途中にあり、NFWモデルに比べ質量の中心集中が進んでいないために、外側での密度勾配が緩やかとなる結果を得ている。今後、その他の天体について調べることで銀河団の構造進化とガス質量比の関係について調べることで銀河団進化の点で新たな知見を得たい。ハードウェア開発においては、TES型X線マイクロカロリメータの信号多重化の研究の前段階として、金沢大学でのTES型X線マイクロカロリメータの冷却評価環境をより整備する必要があった。このため、本年度は、TES型X線マイクロカロリメータの読み出し回路としてのSQUIDの動作確認と、このセンサを用いたX線パルス観測に成功した。また、冷凍機の冷媒開発と熱スイッチ開発にも取り組んだ。
2: おおむね順調に進展している
観測的研究は、観測的宇宙論の基本的な課題である宇宙の組成比を制限する点が重要な取り組みであると言える。銀河団の外縁部まで含めたガス質量分布を調べることは、非常に慎重なバックグラウンドの検討が必要であるものの、宇宙最大の自己重力系である銀河団の質量の半分以上を制限するために異なるX線天文衛星を用いたデータ処理方法を独自に進めた。検出器開発の面では、将来の衛星搭戟にむけたTES型X線マイクロカロリメータの基盤技術開発の中心的役割を担っている。本年度は、冷却系の開発評価環境の確立ができたと言える。
銀河団外縁部は、銀河団質量の半分以上を占める領域であり、宇宙構造形成に関わるダークマターとバリオンの比を制限するために重要な観測領域である。本年度の「すざく」衛星での銀河団のバリオン質量比計測から、Abell 2104銀河団は宇宙における平均値として知られる10-20%程度と比較してかなり低い5%程度であることが分かってきた。これは各銀河団の進化過程における質量の中心集中の度合いと関係する示唆的結果を得ている。今後は他の銀河団のバリオン質量比を比較することで、銀河団の質量集中の度合いと銀河団進化を関連つけながら、銀河団の全質量を考慮したバリオン質量比を統計的に検討していきたい。
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Journal of Low Temperature Physics
巻: (Online)
10.1007/s10909-012-0592-9
10.1007/s10909-012-0594-7
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: V63,SP3 ページ: S1019-S1033