本研究の目的は、日本沿岸の緯度傾斜に沿った環境変化に対するサンゴの適応的分化パターンを解明することである。3年度目は、これまで採取したサンプルの遣伝子解析を進めることに主眼を置いた。昨年度は、これまでの研究で絞り込んだ加速進化遺伝子をターゲットに、遺伝子配列を決定して解析を進めたが、ゲノムワイドに遺伝的変異を調べる必要性が出てきたため、現在公開されているコユビミドリイシの全ゲノム情報を用いて、RAD (Restriction site associated DNA)解析をするための準備を進めた。コユビミドリイシの全ゲノム情報をダウンロードし、RAD解析に適した制限酵素の組み合わせを調べるためのバイオインフォマティクス解析を行なった。また、全遺伝子配列をBLASTして、アノテーションを行ない、遺伝子名のリストを作成した。 また、瀬底研究施設前から採取されたコユビミドリイシ20群体を用いて、瀬底研究施設での屋外水槽にて、1年間に渡る共通環境実験を行なった。その結果、コユビミドリイシの石灰化及び光合成活性は夏期に最大になることが確認された。短期間及び長期間での共通環境実験の結果から、高温及び低温耐性に関する形質評価を行ない、異なる形質を示す遺伝子型のサンゴ片の絞り込みに成功した。 今後、加速進化遣伝子の塩基配列解析やRAD解析を、日本各地から採取したサンプル及び共通環境実験で形質評価を行なったサンプルに適用し、サンゴの適応的分化に関わる遺伝的基盤の解明を継続していきたい。
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