研究課題/領域番号 |
11J03270
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中 惇 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 鉄酸化物 / 低次元有機導体 / 電荷秩序 / 誘電体 / フラストレーション |
研究概要 |
近年、強相関電子系において電荷秩序が空間的な反転対称性を破ることにより電気分極が生じる新しいタイプの強誘電体が実験的に提唱され注目を集めている。これは"電子強誘電体"と呼ばれており、LuFe_2O_4などの酸化物や、K-(ET)_2Xなど有機導体においてその可能性が指摘されている。これまでの我々の研究において、電子強誘電体における強誘電相では電荷の揺らぎが大きく、これが系の分極発現に大きな役割を果たすことが明らかになっている。このような電荷の揺らぎの効果は、動的性質にも顕著に現れると期待される。電子強誘電体の動的性質に関して、これまでいくつかの特徴的な実験結果が報告されている。 RFe_2O_4においては光学伝導度や非弾性共鳴X線散乱の実験により、電荷秩序相においても大きな電荷揺らぎが残ることが示唆されている。またK-(ET)2Xにおいてはテラヘルツ領域の光学測定により電荷秩序の揺らぎに起因する集団励起が観測されている。これらの実験結果を踏まえ、電子強誘電体の代表的な物質である(a)RFe_2O_4、及び(b)K-(ET)_2Xにおいて電荷秩序相の動的な誘電応答、並びにこれらに対する電荷揺らぎやフラストレーションの効果を明らかにすることを目的として理論研究を行った。(a)RFe_2O_4においては電気分極を伴う電荷秩序相(FE相)と分極を持たない電荷秩序相(AFE相)が競合しており、分極揺らぎにより前者が安定化する。これらの相で光学スペクトルを比較すると、AFE相の電荷励起は単一のエネルギーに集中して現れるが、FE相においては広いエネルギー領域に渡って複数の励起が出現する。またFE相ではAFE相に比べてスペクトル強度が温度降下に対して緩やかに低下することが示された。これは実験的にも指摘されているように、電荷秩序相において大きな電荷の揺らぎが存在すること示唆する結果である。(b)K-(ET)_2Xを念頭にETダイマー内の電荷自由度を有する電荷秩序系の動的性質を調べることで、ダイマー内の電荷揺らぎに起因する低エネルギーの集団励起が存在することを理論的に示した。また電荷秩序相の近傍において、この励起の特定波数のモードがソフト化することを明らかにした。これはテラヘルツ領域の光学測定において観測されている隻団励起に対応している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究計画に従って電子誘電体の強誘電電荷秩序相における動的性質の解明を目的として研究を行い、代表的な2つの物質(RFe2_O_4,K-(ET)_2X)を対象として以下の成果を得ることが出来た。Rfe_2O_4に関しては電荷秩序相においてフラストレーションによる電荷揺らぎが強く残ることを示した。K-(ET)_2Xにおいてはダイマー内の電荷揺らぎに対応する特徴的な低エネルギー励起が存在することを示した。
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今後の研究の推進方策 |
電子強誘電体の強誘電相は電荷揺らぎにより微小な外場に対する大きな応答や非線形応答が期待される。実際にRFe_2O_4では酸素欠損、電場、磁場、光などの外部刺激に対する特異な応答が観測されている。またα-(ET)_2XやK-(ET)_2Xなどの有機導体においても電荷秩序相・モット絶縁体相の光照射効果の実験が行われている。これらの実験結果をもとに、強誘電相の様々な外場応答の性質を調べ、その微視的な起源を明らかにすることを目的として研究を行う。具体的には、RFe204の電荷秩序相において静電場を印加し、電場強度に対する直流伝導度の変化を調べる。電場がある閾値を超えると電荷秩序が融解して伝導に寄与する電子が増加し、非線形伝導やサイリスタ特性を示すことが期待される。特に強誘電相においては電荷秩序の特徴的な副格子構造に起因した段階的な電荷秩序の融解現象が期待される。またK-(ET)_2Xのモット絶縁体相における光照射効果の解析を行う。光のエネルギーや強度に応じて金属状態や電荷秩序状態への選択的な"光誘起相転移"の可能性が期待される。
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