研究課題/領域番号 |
11J03288
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀 千明 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 担子菌 / セロビオース脱水素酵素 / 糖質加水分解酵素 / セクレトーム解析 |
研究概要 |
担子菌(キノコ)はバイオマスを完全分解できることから、担子菌によるバイオマス生分解機構の解明は、バイオマスからの有用物質への変換利用を考える上で非常に重要である。本研究では、単一バイオマス成分を使用した新しいモデル系にて本菌が菌体外に生産するバイオマス分解酵素を観察することから、分解機構に新たな知見を与えることを目的としている。まず、バイオマスを成分的に分割し、再構築したモデル系での本菌のセクレトーム解析を行った。その結果、セルロースにキシランを添加するといくつかのセルロース分解関連酵素の生産量が増加した。これら酵素は、セロビオース脱水酵素および最近になってセルロースを酸化的に分解することが明らかとなった糖質加水分解酵素ファミリー61タンパク質であった。この結果はバイオマスに含まれる糖質の分解において、主要な役割を果たすと考えられている加水分解だけでなく、酸化分解の重要性を示した。また、重合度の違うキシロオリゴ糖およびセロオリゴ糖を添加した培養系での、担子菌の遺伝子発現応答解析を行ったところ、2量体以上の直鎖キシロオリゴ糖によって、セルロース分解酵素遺伝子の発現が誘導された。このことは、子のう菌において知られているキシロースを介した誘導とは違った新たな誘導機構の存在の可能性を示した。さらに、セロオリゴ糖による遺伝子発現応答結果と比較すると、キシロオリゴ糖に応答する遺伝子は選択的かつ転写レベルが低いことも明らかとなった。この結果は、キシロオリゴ糖によって誘導されるいくつかのセルロース分解関連酵素がセルロースを分解し、生成したセロオリゴ糖によりセルロース分解関連酵素全体の発現を強く誘導するといったカスケード的な誘導機構が存在することを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は国内外での学会発表や海外学術雑誌に論文を3報投稿するなど、精力的に研究に取り組んでいたと考えられる。これらの成果は本課題の進展に有益であり、また、担子菌のバイオマス分解機構について新たな知見を与えたと考えられる。また、本申請において、セルローススポンジを用いた新しい培養系の構築が大きな課題であったが、これについても問題点の解決に向けて着実に実験を進めている。このように取り組んだ研究内容を博士論文にまとめ、学位を取得した。以上のことから、申請者はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、キシロオリゴ糖を添加した培養系における担子菌の全転写産物解析を進めており、この結果をまとめて海外学術雑誌に提出する予定である。また、セルローススポンジに担子菌を生育させ、様々な培養条件や基質条件を試し解析することから、セルローススポンジを用いた培養系の構築を完遂することを最終的な目標としている。加えて、担子菌研究において世界を牽引しているアメリカ・ウィスコンシン大学のDan Cullen教授のもとで担子菌のゲノムワイド解析について学ばせて頂くことを計画している。
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