研究課題/領域番号 |
11J03313
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 成子 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | シアノファージ / シアノバクテリア / Microcystis aeruginosa / 感染パターン |
研究概要 |
本研究は、アオコ防除へ向けた基礎的研究として、分子生物学的手法を用いて、環境中におけるMicrocystisファージが、M.aeruginosa個体群の消長に及ぼす影響とそれに関わる環境因子を評価することを目的としている。本年度は、自然環境中における、シアノファージの感染パターン、宿主への量的影響について、調査・解析を行った。 まず、ファージの感染パターンを明らかにするため、京都市広沢池において、3時間間隔で24時間採水し、Microcystisファージ尾部遺伝子(g91)を標的としたリアルタイムPCR法を用いて、宿主画分(試水を遠心分離して得たペレット)およびウイルス画分(0.2μmフィルターでろ過した試水)に含まれる、Microcystisファージ粒子数の経時変化を調査した。さちに、転写レベルでもファージ感染を評価するため本ファージ遺伝子の相対転写量も調べた。その結果、ウイルス画分(浮遊ファージの指標)と宿主画分(宿主細胞内でのファージ複製の指標)のファージ粒子数、およびファージ相対転写量は日中に高く夜間に顕著に低下した。さらに、それぞれの画分のファージ遺伝子タイプを調べた結果、1つのタイプ(G1タイプ)が全ての画分に共通してみられた。従って、Microcystisファージ感染は、光周期に関連した日周性を示すことが明らかとなった。 一般的に、自然環境中におけるウイルス粒子数を定量する際、0.2μmフィルターによるろ液を「ウイルス画分」として用いる。従来、ファージが宿主へ及ぼす影響を定量的に評価する際、「ウイルス画分」のファージ粒子数からファージ感染を受けた宿主細胞数を推定することで評価されてきた。本研究結果より、宿主画分のg91は、ウイルス画分のそれらより数百倍高く、これは一年を通して観察された。このことから、従来のように、ウイルス画分のファージ粒子数を基にして推定したファージが宿主へ及ぼすインパクトは過小評価されている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Microcystisファージの感染が光周期に関連した日周性を示すこと、さらに、Microcystisファージは水中に浮遊するよりも宿主コロニーあるいは懸濁物などに付着する方が1~2桁多いことを示した。これらの結果は、自然環境中におけるMicrocystis aeruginosa個体群動態へのシアノファージの影響を評価するための基礎的知見となるもので、最終目的に向けて順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Microcystis aeruginosa NIES298株-MicrocystisファージMa-LMM01の感染系を用いて、宿主生理状態の変化をもたらす環境因子(水温、栄養塩、照度)のバーストサイズ(宿主1細胞から放出される娘ファージの数)への影響およびシアノファージ感染能消失に対する環境因子(水温、栄養塩、照度)、の影響を明らかにする。さらに、これらを加味した環境中での、M.aeruginosa個体群の消長に対する、Microcystisファージのインパクトを解明する。
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