研究課題/領域番号 |
11J03313
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 成子 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | シアノファージ / シアノバクテリア / Microcystis aeruginosa / 共進化 / 被感染宿主細胞密度 |
研究概要 |
本研究は、アオコ防除へ向けた基礎的研究として、分子生物学的手法を用いて、環境中におけるミクロキスティス個体群の消長に及ぼす本種感染性ファージ(以下、ファージ)の影響を評価することを目的としている。昨年度明らかとしたファージ感染サイクルや娘ファージの挙動を踏まえて、本年度は、ファージの遺伝的多様性および季節変動を調査し、ファージ感染を受けている宿主細胞数を推定することで、ファージ感染が宿主動態へ及ぼす影響について評価した。 京都市広沢池において、2006年から2011年までのアオコ発生時期に計23回、Ma-LMM01タイプファージ尾部遺伝子(g91)の多様性を調査した。計810クローンの塩基配列を決定し、それらは100%塩基配列相同性で419遺伝子型に分類された。最節約ネットワークを構築した結果、それらの遺伝子型はグループI-IIIに分けられた。各グループは、それらの出現頻度に応じて分類された5つの主要型、6つの準主要型、および408つの希少型から構成された。多様性解析の結果、ファージの高い多様性が維持されていることが示され、これは主要および準主要型の1塩基多型である希少型が多数存在したことに由来した。また、調査期間を通して共存する主要型の経時的変動、および希少型の出現パターンから、ファージの遺伝的多様性は、頻度依存選択が働くことにより維持され、宿主との軍拡競争型共進化により創出されることが明らかとなった。 これまで、最も小さなグループIIIに属するファージのみを定量していたことが明らかとなった。そこで、グループI-IIIのファージすべてを定量することで、Ma-LMM01タイプファージに感受性である宿主の被感染率を算出したところ、それは0.05-36%だった。従って、ファージ感染は宿主個体群組成の変動のみならず、本ファージ感受性宿主動態へ影響を及ぼす可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ミクロキスティス感染性ファージの遺伝的多様性を明らかにするとともに、その創出および維持についても言及することができた。また、前年度の結果および明らかとなったファージ遺伝的多様性を踏まえて、自然環境中における本ファージ感受性宿主の被感染率を算出したところ、それは0.05-36%と高かった。これにより、ファージ感染は宿主個体群組成の変動のみならず、本ファージ感受性宿主動態へ影響を及ぼす可能性を提示し、おおむね最終目標に達した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度、実験室内においてミクロキスティス・エルギノーサNIES298株-ミクロキスティス感染性ファージMaLMM01の感染系を用いて、環境因子(UV、栄養塩、照度)がファージ感染能消失へ与える影響を評価することができなかった。本実験は、現場環境において行う必要があると考えられ、今後は、その影響を組み込んでファージ感受性宿主の被感染率算出を行うことが必要であると考えられる。
|