研究概要 |
海と川を行き来する通し回遊魚のうち,サケに代表される遡河回遊やウナギを初めとする降河回遊は,これまで多くの研究が行われてきた。しかし,ハゼ科魚類の起源については明らかでなく,両側回遊を行うハゼ科魚類については,生活史に関する知見も不足している。熱帯島嶼域を中心に分布するボウズハゼ亜科魚類は,全種が両側回遊性の生活史を持つ。これまでの研究から,主に温帯に生息するボウズハゼは,温帯の四季に対応した季節性と,既知の温帯性の両側回遊魚とは異なる長い海洋生活期や高い海洋依存度を持つものと推測された。これらの両側回遊の特性は,発生初期の生態に深く関わると予想されるが,それらに関する知見は皆無に等しい。本研究では,琉球列島に生息する両側回遊魚の大規模回遊種と局地的回遊種のそれぞれ複数種をモデルとして,仔魚の行動特性,流下と加入の生態特性,海洋における分散過程,およびハゼ科魚類の分子系統関係について比較研究を行い,ハゼ科における両側回遊現象の進化の過程を解明することを目的とした。 2011年6月から毎月1~3回,沖縄島北部の2河川の河口域に定点を設定して,両側回遊魚のボウズハゼとヨシノボリ属仔魚の海から河川への加入調査を行った。その結果,仔魚の加入の多くは6月から7月と2012年の3月に観察された。仔魚を採集し,耳石による日齢査定を行ったところ,仔魚は200日程度の期間を海で過ごすことが分かった。 沖縄島北部の河川において,通し回遊性ハゼ科魚類のゴクラクハゼ,タネカワハゼ,チチブモドキ,ナガノゴリの産着卵を採集し,孵化仔魚を飼育した。孵化から着底まで昼と夜の仔魚の比重を継続的に測定した。その結果,局所的回遊種のゴクラクハゼは,昼夜で比重が変化しており,昼間はやや深い場所に留まり,夜間は浮上しているものと推察された。また,昼夜の変化は着底が近づくにつれ小さくなり,着底後は昼夜の比重が逆転した。このことは,底生性に移行する生態と一致した。同じく局所的回遊種のナガノゴリは30日間の飼育の後,着底した。一方,大規模回遊種であるタネカワハゼとチチブモドキは,孵化仔魚のサイズが極めて小さく,それぞれ孵化後から7日目まで飼育を行った。タネカワハゼの比重は,ゴクラクハゼよりも大きく,昼夜の変化も大きかった。以上より,回遊規模により比重が異なり,それらが生息場所を反映する可能性が示された。大規模回遊種のボウズハゼについて,海洋での分散規模を推定するため,分布域を網羅する11地点から採集した標本のミトコンドリアDNAのサイトクロームb領域の全塩基配列を決定した。今後解析を行い,集団構造を把握する。 以上の結果より,両側回遊性ハゼの初期生態について,未知であった生態の知見を得ることができ,両側回遊現象の解明に向けて前進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度実施予定であった,両側回遊魚ボウズハゼとヨシノボリ属仔魚の加入調査および海洋生活期の推定について,計画通りに進行している。また,仔魚の飼育と比重の測定については,当初の予定よりも多数の種について,より詳細な結果を得ている。集団構造の把握についても現在実験を継続中であり,これら3つの研究項月は,いずれも研究目的達成に大きく貢献する内容である。
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