研究概要 |
海と川を行き来する通し回遊魚のうち,サケマスの遡河回遊やウナギの降河回遊は,これまで多くの研究が行われてきた。しかし両側回遊を行うハゼ科魚類についての知見は乏しい。本研究では,琉球列島に生息する両側回遊魚の大規模回遊種と局地的回遊種のそれぞれ複数種をモデルとして,仔魚の行動特性,流下と加入の生態特性,海洋における分散過程,およびハゼ科魚類の分子系統関係について比較研究を行い,ハゼ科における両側回遊現象の進化の過程を解明することを目的とした。 2011年からの継続として,毎月1,2回,沖縄島の有津川で両側回遊魚のボウズハゼとヨシノボリ属仔魚の海から河川への加入調査を行っている。仔魚の加入は4月から6月に多数観察された。仔魚を採集し,耳石による日齢査定を行ったところ,仔魚は約200日間を海で過ごすことが分かった。今後観察個体を増やし,加入時期による浮遊期間の差異を検討する。 八重山諸島で孵化した大規模回遊種ボウズハゼが沖縄島に加入する可能性を推定するため,西表島のゲーダ川・仲間川において,流下仔魚と生態の調査を行った。結果は現在解析中である。 大規模回遊種チチブモドキの産着卵から孵化仔魚を得て,超小型ワムシ(プロアレス)を給餌し,飼育を行った。孵化後0,1,2,3,5,7,10日後の昼と夜の仔魚の比重を測定した結果,仔魚の比重は昼夜で変化することがわかった。 ボウズハゼの海洋での分散規模を推定するため,分布域を網羅する10地点から採集した263個体のミトコンドリアDNAのサイトクロームb領域の全塩基配列により,集団構造解析を行った。その結果,本種は分布域全体で,巨大な単一の集団を形成していることが明らかとなった。現在,この結果を投稿論文としてまとめている。 沖縄島において,通し回遊性ハゼ亜目魚類のうち大規模回遊種タネカワハゼと局所的回遊種ナガノゴリを採集した。 フランス国立自然史博物館において,レーザーアブレーションICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いて,耳石に含まれるSr,Ca,Mg,Baの各元素量を測定し,回遊履歴を解析した結果,タネカワハゼはナガノゴリと比較して,河川加入後に直ちに淡水域へと遡上すること,ナガノゴリは,産卵期に汽水域まで回遊する可能性のあることが分かった。 これらの結果より,通し回遊性ハゼ亜目魚類の生態のうち,特に未知である海洋生活期について,一定の知見を得ることができた。今後継続的に研究を行うことで,本科魚類の回遊現象の起源と進化の解明につなげることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に実施した加入調査と海洋生活期間の推定について,継続的な調査と研究を続ける。仔魚の飼育と実験についても,他の種について同様に進め,大規模回遊種と局所的回遊種についての比較検討を行う。集団構造解析については,論文の作成を継続する。微量元素分析については標本を追加し,より詳細な結果を得る予定である。 以上を総合し,通し回遊性ハゼ科魚類の初期生態を把握し,その起源と進化について考察を行う。
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