研究概要 |
有性世代に基づく現行の菌類分類体系に,従来無視されてきた無性世代の形態形質情報を加え,両世代に基づく菌類分類体系の再構築を試みた.研究対象を子のう菌門,クロイボタケ綱に限定し,今年度は1.無性世代菌の収集および2.それらの塩基配列データ取得・分子系統樹の構築を行った.その結果,無性世代の特定の胞子形成様式,胞子形成細胞の数や胞子形態が、有性世代によって特徴づけられる一部の目や科に集中して分布する傾向が示唆された。 1.採集による新規試料の取得 青森県・沖縄県において無性世代菌の採集を行い,約200標本を新たに取得した.そのうち約100標本については純粋培養株も取得した.取得標本には新種・日本新産種が複数含まれていた. 2.塩基配列データの取得・分子系統樹の構築 上記の約100菌株について,リボソームDNAの2領域(18S,28S領域)の塩基配列を新たに取得し,分子系統樹を構築した.その結果,一部の系統において科レベルで胞子形成様式が共通する傾向が確認された(Montagnula科-アレウロ型,Pleospora科-ポロ型,Tetraplosphaeria科-出芽型).胞子形成細胞数に関して,Pleospora目では胞子形成細胞が一点のみの種が多く分布するのに対し,その他の目では胞子形成細胞を複数有する種が多く確認された.ただし,Plesopora目においても植物病原菌を多く含む系統においては胞子形成細胞を複数有する種が多い傾向が確認された.胞子形態に関して,Pleospora目では多細胞で比較的大型の胞子を少数形成する種が多数確認された.一方,その他の目では単細胞または二細胞で比較的小型の胞子を多量に形成する種が集中する傾向が見られた.
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