当研究員はこれまで炭素担持ルテニウム触媒(Ru/C)がセルロースからグルコースへの加水分解反応に高活性かつ高耐久性を示すことを見出している。本年度の研究では触媒系の拡張を目的とし、セルロース加水分解水素化および加水分解不均化反応の検討を実施した。 セルロース加水分解水素化反応には従来2MPa以上の高圧水素が必須であったが、近年当研究員らはRu/Cを用いることにより水素圧を1MPa未満に低減することに成功している。一方、本反応系におけるソルビトール収率は40%未満に制限されており、収率を向上できれば意義深い。本目的の達成には反応系の問題点解明が必須であると考え、速度論的解析を検討した。経時変化の確認から、本反応は(1)セルロース加水分解、(2)グルコース水素化、(3)グルコース熱分解、および(4)ソルビトール水素化分解の4種類の素反応により構成されていることが分かった。ここで、シミュレーションから反応時間を短時間化することにより(4)パスの影響を無視できることが分かったので、短時間で反応を完結させるために律速段階である(1)パスの加速を検討した。その結果、触媒とセルロースとを混合粉砕することにより(1)パスが約10倍加速され、ソルビトール収率は約70%に増大した。本結果は既報の高水素圧条件の値と遜色が無く、低水素圧条件でのソルビトール収率の向上に成功した。 上記研究からRu/Cは高い加水分解および水素化活性を有することが分かり、より複雑な反応系に展開できると考えた。種々の検討の結果、Ru/Cがセロオリゴ糖の加水分解不均化反応に高活性を示し、ソルビトールおよびグルコン酸の同時合成に成功した。従来必須であった添加剤(酸化剤、還元剤など)を用いずに反応を進行できたことから、グリーンな触媒反応系を設計できたと結論する。
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