Stress Granule(SG)は細胞がウイルス感染や酸化ストレスなどのストレスに曝された際に形成される細胞内顆粒状構造体で、停止状態にある翻訳開始複合体が集積したものである。偏性細胞内寄生体であるウイルスはゲノム複製や翻訳を宿主細胞に依存しているため、SGの誘導による翻訳抑制は宿主の生体防御反応の一つであると考えられている。本年度は日本脳炎ウイルス(JEV)のコアタンパク質によるSG形成の制御機構と病原性との関連性を明らかにした。 JEV感染細胞におけるSG形成を検討するために、SGのマーカータンパク質であるG3BPの細胞内局在を指標に観察を行ったところ、JEV感染細胞はSG形成に抵抗性を示すことが明らかになった。このSG形成抑制に関わるウイルスタンパク質を探索した結果、コアタンパク質が関与することが示された。そこでコアタンパク質と相互作用する宿主因子を質量分析法で解析したところ、SG形成に関与するCaprin-1が同定された。さらにコアタンパク質の97番目のリジンおよび98番目のアルギニンがCaprin-1との相互作用に重要であることがわかった。そこでこの2つのアミノ酸をアラニンに置換した変異ウイルスを作製し、変異ウイルスの培養細胞における性状を解析した結果、変異ウイルスは野生型に比べて産生されるウイルス量が低下し、また変異ウイルス感染細胞では誘導されるSGの数は有意に増加した。最後にこの変異ウイルスのマウスに対する病原性について検討したところ、変異ウイルスは野生型に比べて、マウスに対する病原性が著しく低下していた。 以上の成績より、JEVのコアタンパク質はCaprin-1と相互作用を介して、SGの形成を抑制し、効率のよいウイルス産生を可能にしていることが示唆された。またコアタンパク質によるSG抑制は個体レベルでの宿主防御にも重要であることが明らかになった。
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