研究課題/領域番号 |
11J03397
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
斉藤 耕太郎 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 中性子非弾性散乱 / 多極子秩序 / 強相関電子系 / スクッテルダイト |
研究概要 |
局在電子系として研究が続いてきたf電子系において、局在性と遍歴性の競合や協調現象に注目が集まっている。PrRu_4P_<12>の高次多極子秩序は、両者の協調現象によって他に類を見ない高次の電子自由度が新奇な金属-非金属転移として物性物理の表舞台に顔を出した例と言える。しかし秩序変数の直接観測は実現しておらず、多極子間相互作用についても不明な点は多い。本研究はf電子状態の観測に非常に強力な中性子及び多極子秩序の直接観測が可能な放射光を用いて、PrRu_4P_<12>の高次多極子秩序における相互作用の解明を目指す。本年度は震災の影響で放射光実験を実施することができなかったが、国内外中性子実験コミュニティの支援を受け、中性子実験により以下の二つの成果を得た。両成果ともに日本物理学会において発表されている。 Ce置換系の低温再金属化相における4f電子状態 多極子秩序非金属相への転移温度が約50KであるPr(Ru_<1-x>Rh_x)_4P_<12>(Rh置換系)及びPr_<1-x>Ce_xRu_4P_<12>(Ce置換系)において、8~15K以下で再金属化現象が報告されている。申請者はRh置換系の再金属化相における4f電子状態の急激な変化を中性子非弾性散乱実験により示した。本年度はCe置換系の合成から着手し、Ce置換系においても再金属化相で4f電子状態の急激な変化が起こり、低温でRh/Ce両置換系の4f電子状態が相似していることを示した。他の実験における相似点も考慮すると、PrRu_4P_<12>の多極子秩序非金属相に対するRh/Ce置換の効果は電子ドープという共通の起源に求められると考えられる。 PrRu_4P_<12>の極低温での低エネルギー励起構造 10K以下で電気抵抗が有限値に収束するPrRu_4P_<12>の非金属相は脆弱であると考えられる。最近の研究は1K以下でPrの4f電子と原子核が結合した新たな量子状態の形成を指摘している。本研究はPrRu_4P_<12>の1K以下での電子状態を明らかにするため、パルス冷中性子高分解能チョッパー分光器を用いて中性子非弾性散乱実験を行った。観測されたブロードな低エネルギー励起は、Pr4f電子の結晶場励起では説明できない一方で、上述の4f電子-原子核結合モデルで解釈可能であった。ただし、エネルギー準位が計算とは異なっており、新たな相互作用の必要性を示唆している。例えば、低温の残留伝導電子が、4f電子-原子核結合系に混成することによる相互作用を同モデルに追加する必要があると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は大型実験施設での測定を主たる手法としており、それらの施設が震災で甚大な被害を受けたため研究に遅れが出た。幸い、国内外の中性子実験コミュニティの支援により海外での中性子実験の機会が得られたため、中性子実験に関する遅れは最小限にとどめられている。
|
今後の研究の推進方策 |
フランスの中性子実験施設LLBへの長期滞在を予定しており、現地の三軸分光器を用いた実験を予定している。また、隣接する放射光実験施設SOLEILでの実験も視野に入れており、共鳴X線散乱による多極子秩序の直接観測及びEXAFSによるRh/Ce置換系における局所構造の検証を検討している。
|