研究課題/領域番号 |
11J03430
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 遼 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD)
|
キーワード | インフレーション / 原始密度揺らぎ / 暗黒物質 / 原始ブラックホール / 宇宙線 |
研究概要 |
前年度の研究では「原始密度揺らぎのスペクトルに見られるスケール不変性からのずれ」と「原始ブラックホールによるWIMPの集積」に関する2つの課題について研究を行った。 原始密度揺らぎにはインフレーションを引き起こす物理機構についての情報が含まれており、近年の観測拉術の向上によりインフレーションに関する精密な情報が得られるようになってきている。本研究では宇宙背景放射の観測から示唆されている原始密度揺らぎのスペクトルのスケール不変性からのずれに着目し、それを引き起こす物理機構に関する研究を行った。一般的なインフレーションのモデルには非常に大きな質量を持ったスカラー場が含まれており、その性質はそのモデルの背景に潜む高エネルギーの物理に関係している。しかしながら、多くの場合、この重いスカラー場がスペクトルなどに及ぼす影響は限定的である。それに対して、私は前年度の研究で、重いスカラー場とインフレーションを引き起こすスカラー場であるインフラトシが微分結合していた場合、共鳴現象によって原始密度揺らぎのスペクトルに無視することのできない特徴的なピークを生み出すことを見いだした。 また、原始ブラックホールが引き起こすWIMPの降着に関する研究も行った。現在の観測により、宇宙を占めている物質のほとんどは未知の暗黒物質と呼ばれる物質で占められていることが分かっている。多くの場合、暗黒物質はひとつの構成要素で占められていると考えられているが、複数の物質によって担われている可能性もある。本研究では、暗黒物質がWIMPと原始ブラックホールの2つの構成要素によって担われていた場合に見られる降着現象に着目し、現実的なモデル・熱史の下でのWIMPの降着量を詳細に調べた。降着されたWIMPは対消滅により宇宙線を放射する。この宇宙線を観測と比較することにより、WIMPのモデルや原始ブラックホールを生み出す小スケールの密度揺らぎについて新たな制限が得られることが予想される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
原始密度揺らぎのスケール不変性からのずれに関する研究では理論的側面は完成しているものの、観測結果との比較の際に生じる技術的な困難に対する議論に時間を要した。一方で、原始ブラックホールによるWIMPの降着に関する研究では、WIMPの速度分散が卓越している場合の降着量の評価結果に信頼できない部分があり、時間を要している。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは前記の2課題について課題を完遂し、結果をまとめる。原始密度揺らぎめスケール不変性からのずれに関する研究についての先に触れた問題点はすでに整理されており、近く結果をまとめる予定である。その後はさらにここで考えた重いスカラー場の共鳴現象の高次相関関数への影響の評価を行っていく。また、重いスカラー場を有する具体的なインフレーションモデルを用いて共鳴現象を解析し、観測結果との比較から得られるモデルへの示唆についても考察していく予定である。 一方で、原始ブラックホールによるWIMPの降着に関する研究については、計算コードの再点検を行い、降着量の評価を確定させる。その後、その降着量を用いて対消滅による宇宙線のフラックスを評価し、WIMPのモデルや原始ブラックホールの存在量(小スケールの密度揺らぎのスペクトル)に関する制限を導く。さらに、銀河ハロー内での連星形成やお互いの接近によって形成されたハローがどのように影響されるかについても調べて行く予定である。 これらの結果がまとまった後は、小スケールの密度揺らぎの非線形効果による観測スケールの密度揺らぎへの影響の評価を行う。観測分解能以下の小スケールに大きな密度揺らぎや等曲率揺らぎが存在した場合に、観測スケールの密度揺らぎの発展がどの程度影響を受けるか高次摂動論を使って評価する。
|