研究課題
発達期のウィルス感染により引き起こされる代表的な精神神経疾患として統合失調症が知られているが、統合失調症患者の30%が薬物の適正使用にも関わらずいまだ治療抵抗性(難治性)統合失調症と診断され、長期入院を余儀なくされている。統合失調症とその治療薬の研究がウィルス感染による神経発達障害の病因および病態生理解明に繋がると考え、2013年度はその分野で活発に研究をしている米国Icahn School of Medicine at Mount SinaiのGonzalez-Maeso博士の研究室において難治性統合失調症および治療薬(抗精神病薬)の作用メカニズム解明および新たな治療法開発に関する研究を行った。近年、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤と非定型抗精神病薬の併用が治療抵抗性統合失調症に有効であることが報告されているが、HDACが非定型抗精神病薬の薬効にどのような影響を与えているか、詳細なメカニズムは不明であった。我々は非定型抗精神病薬(クロザピンなど)の有する5HT2A受容体拮抗作用がHDAC2発現を誘導し、それに伴い脳機能維持において重要な受容体の1つである代謝型グルタミン酸受容体mGlu2プロモーター上のピストンH3アセチル化の低下、mGlu2転写活性の抑制を引き起こすことを明らかにした。さらに抗精神病薬によるHDAC2誘導メカニズム探索のために5HT2A受容体依存的に発現変化する転写因子を5HT2Aノックアウトマウスおよび5HT2Aアゴニストおよびアンタゴニストを用いて現在調査中である。また抗精神病薬により誘導されるHDAC2の作用を抑制するためにHDAC2ノックアウトマウスおよび米国で既にリンパ腫において臨床適応されているHDAC阻害剤SAHAを用いて抗精神病薬によるHDAC2誘発作用の抗精神病薬効果に与える影響に関して研究を遂行中である。
2: おおむね順調に進展している
2013年5月には国際学術誌Glia誌において「発達期の異常免疫応答による神経発達障害におけるIFITM3の役割に関する研究」を発表した。世界に先駆けて免疫応答による神経発達障害の分子メカニズムを解明した研究であり、多くの研究論文で引用され、注目を浴びている。
今後は抗精神病薬によるHDAC2誘導メカニズム関連分子群を統合失調症患者の死後脳を用いて抗精神病薬での治療歴の有無との関係を調べる予定である。さらにそのHDAC2誘導シグナルが統合失調症様異常行動に与える影響について調べる予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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