研究概要 |
半導体露光装置の振動制御の分野において,絶対変位信号を用いたダイレクトフィードバックおよびダイレクトフィードフォワードの制御構造を活用するため,絶対変位センサの開発とその検出性能の改善を行っている.同センサは,計測対象に直接設置するサイズモ型の振動センサでありながら,絶対加速度・速度・変位の3信号を同時検出できる.このため,現代制御理論に基づく状態フィードバックの適用が容易となり,特に変位信号の活用によって,低周波から高周波領域に渡る大幅な除振性能の改善が新たに期待できる.しかし,2自由度除振装置を用いたフィードバック試験の結果から,産業応用への課題として高感度・広帯域化が必要であると判明した.ただし,このサイズモ型振動センサの検出感度と帯域の間にはトレードオフの関係があるため,両者を同時に達成することは困難である.そこで,平成23年度は,開発段階にある絶対変位センサの広帯域化を目的に,機構の実験モーダル解析,駆動コイルの逆起電力と電流ドライバのモデル化,根軌跡法を用いた制御系の安定解析,そしてハイブリッド速度検出器の採用を検討してきた.まず,モーダル解析では,振動検出の基本機構である振動子の運動モードを特定して,高周波領域における広帯域化を検討した.次に,駆動コイルの逆起電力をモデル化して,電圧フィードバックドライバから電流フィードバックドライバへの変更を施した.さらに,このモデルを用いて,制御系の安定解析を実施した.最後に,従来の検定コイルのみでなく駆動コイルの逆起電力を速度信号として検出するハイブリッド速度検出器によって,低周波帯域が拡大できる原理を検証した.また,これらの絶対変位センサ自身の性能改善に加えて,除振装置へのフィードフォワード応用を検証するため,床振動フィードフォワードの効果を周波数応答で計測する予備試験を並行した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施計画では,(1)広帯域化解析用の絶対変位センサの試作,(2)実験モーダル解析による絶対変位センサの広帯域化,そして(3)除振装置の一般的な性能指標である除振率を計測するための予備試験の実施を掲げた。 (1)と(2)では,広帯域化の妨げとなる高周波共振の原因究明が目的であり,広帯域化そのものは達成できない。このため,詳細な制御モデルを用いて,理論的な側面から高周波共振の発現理由を検証してきた。実機での広帯域化については,ハイブリッド速度検出器の適用,逆起電力の検出機構の変更などが必要である。また,(3)では,広帯域化の効果を明確に確認するため,除振率を計測する予備試験を実施した。これらの内容は,既に国内学会にて発表済であり,研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
絶対変位センサの広帯域化を追究するため,引き続きハイブリッド速度検出器の適用と新たに駆動コイルの巻数・巻方の変更を行う。ハイブリッド検出器の適用では,従来の検定コイルのみでなく駆動コイルの逆起電力も速度信号として新たに検出し,これを絶対変位センサ内部のフィードバック制御に活用する。この手法は,制御回路の変更による電気的な改善で済むため,実装コストが低い。一方,駆動コイルの巻数・巻方の変更では,機械的に検定コイルの巻数を増加させることで,帯域とトレードオフの関係にある検出感度の改善にもとづき広帯域化を実現する。このとき,検出感度を正確に管理・計測する必要があるので,広帯域化とともに感度校正について実機検証する。この感度校正では,絶対変位センサの実加振を行い,加振信号と出力信号の周波数応答を計測する必要がある。よって,モーダル解析で得られた振動子の振動モードや局所共振の影響についても,再考察する。そして,広帯域化を実現した絶対変位センサを用いて,空圧式除振装置の制振実験を行う予定である。
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