研究概要 |
昨年度報告した、鉄サラン触媒を用いた第2級ラセミ体アルコール類の酸化的速度論的分割(J.Am.Chem.Soc.2011,133,12937.)および、2-ナフトール類の酸化的カップリング反応の機構的考察(Chem・Commun.2012,5823.)で得られた知見を基盤に、同触媒を用いたバイヤー・ビリガー反応を含めた種々の不斉酸化反応を検討した。その結果、鉄サラン錯体が1,3-二置換-2-ナフトール類の酸化的不斉脱芳香族化の触媒となることを見いだした。種々の2-ナフトール誘導体がニトロメタン存在下、空気中の酸素を酸化剤に用いて、第4級不斉炭素中心を有する光学活性なエノン類へと変換される。また、ニトロエタンおよび1-ニトロプロパンを求核剤に用いると、2連続不斉中心を有する光学活性なニトロエノン類が高エナンチオおよび高ジアステレオ選択的に得られる事も見いだした。さらに、得られたニトロエノン類はルーシュ還元及び、続く亜鉛還元によって対応する光学活性なアミノアルコールに、また過マンガン酸カリウムで処理する事によってヒドロキシジケトンへと、いずれもジアステレオ選択的に変換可能である事も示した。これまでにもヒドロキシ芳香族化合物の酸化的不斉脱芳香族化反応は幾つかの報告がなされているが、炭素-ヘテロ原子結合形成反応に伴う例が主である。他方、炭素-炭素結合形成に伴う酸化的不斉脱芳香族化反応は第4級不斉炭素中心を含む光学活性なエノン類の直裁的な合成方法となるものの、これまで当量の銅塩を酸化剤として用いたジアステレオ選択的な分子内反応の報告が一例あるのみであった(Angew.Chem.Int.Ed.2011,50,5834.)。本研究は空気中の酸素を酸化剤として用いる点、分子間炭素-炭素結合形成を伴う点、鉄を含む錯体が酸化的脱芳香族化反応の触媒となる点のいずれにおいても新規性が高い(J.Am.Chem.Soc.2012,134, 20017.)。
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