研究概要 |
脳内グリア細胞の活動が、動物の行動や学習といった高次脳機能にどのような制御機能を持つかを調べた。神経細胞が活動するとアストロサイトに発現するチャネルやトランスポーターを介して陽イオンが流入し、細胞膜が脱分極といった活動状態になることが知られている。我々は、神経活動に応じて活性化したアストロサイトが、どのようなフィードバックを神経細胞に返すのかを知ることで、アストロサイトの活動が脳機能に及ぼす影響を知るヒントにつながると考えた。そこで光感受性の陽イオンチャネル(ChR2)をアストロサイト特異的に発現させたマウスを作製し、脳細胞のうちアストロサイトの活動だけを光で制御できるシステムを構築した。自由行動しているマウスの小脳アストロサイトを光刺激したところ、神経細胞の活動マーカーであるc-fosが顕著に増加していることが分かった。これは、アストロサイトを刺激したはずが、神経細胞の活動を引き起こしたという、一見矛盾した結果に思えるのだが、実はアストロサイトから神経細胞への細胞間伝達機構が存在することの有力な証拠でもある。この情報伝達様式が高次脳機能に及ぼす影響を調べるにあたって、小脳依存性の運動学習である水平視機性運動学習(水平方向の視覚刺激に対する眼球の運動学習)を行った。水平方向の視覚刺激を追随するような眼球の動きはアストロサイトの光刺激直後に錯乱し、さらに瞳孔が開くような現象が一過性に観察された。そして驚くべきことに、眼球の振幅が増加して運動学習の効率が上がっていることも明らかとなった。動物のあらゆる行動は、神経細胞や筋肉の支配を受けていると考えられてきたが、それらの活動自体は、実はアストロサイトによる制御を受けていることを示唆す研究結果となった(Sasaki*, Beppu*, et al.PNAS,2012,*equally contribution)。
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