研究課題/領域番号 |
11J03599
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 敏史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ヒッグス粒子 / 超対称性 / 電弱バリオン数生成 |
研究概要 |
超対称性を用いた標準模型を超える物理について、幅広く研究を行った。LHCにおけるヒッグス粒子探索の進展に伴って、ヒッグス粒子に関する研究が素粒子現象論の中心的課題となった。これに合わせて私は、最小超対称標準模型(MSSM)のヒッグスセクターを拡張する研究を始めた。私が取り組んだのは、超対称性を持つ拡張ヒッグスセクターが、超対称強結合ゲージ理論の低エネルギー有効理論として立ち現れる模型を構築し、その現象論を議論することである。私が作った模型は、超対称標準模型の枠組みに、新しいSU(2)ゲージ対称性を導入し、カイラル超場の二重項6つおよび一重項1つを加えたものである。超対称極限でこの理論は、N_c=2、N_f=3の超対称ゲージ理論で記述される。この理論は赤外側で強結合となり、低エネルギーでは二重項6つの代わりにメソン的な一重項15個で記述され、有効超ポテンシャルにおいてそれらは大きな結合定数で結合している。ここで、ゲージ結合が強結合になるスケールは、超対称性の破れのスケールよりも十分高いと仮定する。そして、メソン的一重項15個を超対称標準模型のヒッグス超場およびそれらと結合する新しい粒子と同定し、低エネルギー有効超ポテンシャルをヒッグスセクターの超ポテンシャルと同定すると、超対称拡張ヒッグス模型が得られる。この模型の特徴は、 ヒッグス粒子と大きな結合定数を通して結合する新しい粒子の輻射補正により、有限温度でのヒッグスポテンシャルが変化し、電弱バリオン数生成機構の実現に不可欠な強い一次電弱相転移が起きうることである。また、新しい粒子の輻射補正によって、NMSSMの構造を用いずに、MSSMの枠組みで自然にヒッグス粒子の質量を説明できる。加速器実験におけるこの模型のシグナルとして、ヒッグス粒子の三点結合および光子への崩壊分岐比が標準模型からずれること、それが将来のILCにおいて測定可能な大きさであるであること、を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RS時空を用いた模型の構築に関してはやや遅れているが、標準模型を超える物理としての、超対称拡張ヒッグス模型の研究は、超対称ゲージ理論を用いた模型構築と、加速器実験における模型の現象論の議論の両面で大きく進展したから。
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今後の研究の推進方策 |
超対称拡張ヒッグス模型の研究をより発展させる。具体的には、超対称SU(3)ゲージ理論の低エネルギー有効理論として立ち現れる超対称拡張ヒッグス模型を構築すること、模型の枠組みの中で超対称性の破れの項、特に負の質量二乗項の起源を説明すること、拡張ヒッグスセクターに含まれる新しい粒子の、加速器実験における直接探索について議論すること、が挙げられる。こうした研究を将来の加速器実験と組み合わせることで、ヒッグスセクターの真の構造の解明へつなげていく。
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