研究課題/領域番号 |
11J03609
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩本 貴寛 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | シクロパラフェニレン / 曲面状π共役化合物 / カーボンナノチューブ / フラーレンピーポッド |
研究概要 |
シクロパラフェニレン(CPP)は、ベンゼン環がパラ位で結合した環状構造を有しており、その構造はアームチェア型カーボンナノチューブ(CNT)の最小構成単位である。よって、構造の明確なCNT合成のシード化合物となることが期待されている。CPPの合成は、近年我々を含む3つのグループにより報告されている。さらに、それらの合成法を拡張することで、いくつかのCPP誘導体の合成が報告されている。しかし、全ての六員環が縮環したチューブ状共役化合物の合成は未だ達成されていない。そこで、本年度は、チューブ状共役化合物の合成を視野に入れて、CPP誘導体の合成を検討した。出発基質としてテトラヒドロピレン誘導体を用い、すでに開発に成功しているCPP合成法を行うことで、[4]シクロ(テトラヒドロ)ピレンが得られた。その後、脱水素反応を行うことで[4]シクロピレンの合成に成功した。これらの化合物はチューブ状共役化合物の合成に有用な前駆体となる可能性があり、本研究において重要な化合物になると考えている。昨年度、10個のベンゼン環から成る[10]CPPのみがサイズ選択的にC60を内包し、最短のC60ピーポッドで錯体を形成することを明らかにした。今年度は、CPPのホスト分子としての機能の拡張を目指し、C60とは異なり異方性を有したC70との錯形成を検討した。その結果、[10]及び[11]CPPが選択的にC70を内包すること明らかにした。さらに、単結晶X線構造解析の結果から、[10]CPP内ではC70がCPPに対して垂直な"Standing"と呼ばれる配向を取っていた。一方で、[11]CPP内では、C70がCPPに対して並行な"Lying"と呼ばれる配向を取り、[11]CPPがC70の楕円形に近づくように変形していることが分かった。このC70の配向に関するサイズ選択性は、C70が内包されたCNTであるC70ピーポッドのものと良い一致を示し、CPPとC70の層問距離からファンデルワールスカが主な相互作用であることも明らかにした。これらの結果は、曲面状π一π相互作用を理解する上で重要な知見となることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標であるチューブ状環状π共役化合物の合成に向けて、非常に良い前駆体となることが期待できるCPP誘導体の合成に成功した。さらに、CPPと種々のフラーレン類とのホストゲスト錯体の形成も明らかにし、CPPのホスト分子としての機能の拡張にも成功したことから、本研究が順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、合成に成功したCPP誘導体を前駆体として、種々の有機反応を行うことで、チューブ長の短いカーボンナノチューブの合成を検討する。この際、チューブ状化合物の合成を目指し、モデル分子を用いた有機反応の例はいくつかあるものの、実際にCPPなどの環状共役化合物を用いて行った例はほとんどない。よって、CPP類を出発基質としたチューブ状化合物の合成は未踏の研究である。そこで、既知の有機反応のスクリーニングなどに加えて、新反応の開発も視野に入れて検討を行う。
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